盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
僕みたいな免疫のあるオッサンなら受け流すこともできたんだけど。若い女の子やから、キツかったんやろな。将来を嘱望された女子プロレスラーの木村花さんが、ツイッターでの誹謗中傷を苦にして、みずから命を絶ったという。
僕はドラゴンゲートの大ファンやけど、女子プロレスのほうは疎くて、木村花さんの存在は知らなかった。でも、同じようにSNSを利用している者としてショッキングな出来事やった。悪質な書き込みは匿名やからできること。同じような悲劇を繰り返さないためにも、発信者が特定できるような制度や仕組みを作るべき。人間というのは、日の当たるところではおとなしくしていても、暗いところで悪さをするんやから。
今回の件も一種の「いじめ」。時代とともに、やり口が陰湿になってきた気がするな。僕らの小さい頃は悪口を言われても、言い返せる時代やった。それで済まなければ、ド突き合って解決した。ところが、先生も含めて暴力は絶対にアカン時代となり、SNSを利用して心を痛めつけることがはびこっている。声に出す悪口ならいずれ忘れることもできるんやけど、文字で残るからタチが悪い。
僕はツイッターはやっていないけど、インスタグラムはやっている。球界では最年長インスタグラマーかもしれん。メッセージをくれた人の写真も見ることができるから、ツイッターよりは「炎上」が少ないと聞く。しょうもないことを書いてきても、無視するだけやし。実際にSNSを利用してみると、世界が広がるのを実感した。音信不通になっていた知人とまたつながったり、昔サインを書いてあげた子供が大人になって返信してくれたりする。そういう時は、ほんまにやっていてよかったと思う。
SNSに悪質な書き込みをする人は何が目的なのか。それでストレス発散になったのかな。ある意味では、野球場のヤジと一緒やな。昔のパ・リーグなんて特にひどかった。野球を見るというより、ヤジるために球場に来る人もいた。客が少なかった時代やから、僕らの耳にもしっかりヤジが聞こえてきた。塁に出たら「アブラムシ、じっとしとけ」やからね。南海の香川なんか、特にヤジられてた。でも選手も周りのお客さんもついつい笑ってしまうような、センスのあるヤジも多かった。
野球場のヤジがSNSの陰口と違うのは、周囲のお客さんも誰が発しているかわかること。グラウンドの選手からも「だいたい、あの辺りのやつやな」とわかるしね。部屋にこもって悪口を書き込むぐらいなら、球場に来てヤジを飛ばすほうが、まだマシやで。
6月19日に開幕が決まったプロ野球もしばらくは無観客での開催やけど、徐々にお客さんを入れていくと思う。その時にスタンドから声を発すればいい。センスのあるヤジは年季がいるけど、「下手くそ!」とかだけでもいいんやから。だけど、活躍したら「ようやったぞ!」と褒めてあげることも忘れたらアカンで。とはいえ、観戦OKになっても、今年は大声での声援は禁止になるのかな。ヤジもブーイングも全部をひっくるめて球場の歓声なんやけどね。ほんまに、この新型コロナウイルスというやつは、腹が立つ。木村花さんも普通にリングに上がれていたら、嫌なことを忘れる時間にもなったのではと思うと、よけいにつらいね。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。