世界の福本<プロ野球“足攻爆談!”>「3密時代にこそ選手に勧めたい趣味」

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 開幕がいつになるかわからん中で、選手はどんなテンションで練習してるんかな。緊急事態宣言を出した安倍首相が「密接、密集、密閉」の「3密」を避けるよう国民に訴えてるから、各チームも練習方法に神経を遣っている。個別練習にして、球場や室内に人数があまり重ならないよう時間差をつけるなど、くふうしている。でも、そんな練習だけではつまらんと思う。野球というのは団体スポーツやし、試合をしている時がいちばんおもしろい。みんなストレスが相当たまっているはずや。

 かわいそうやったのは、阪神の選手寮「虎風荘」の若手。寮生の長坂が新型コロナウイルスに感染したことで、寮では厳戒態勢が敷かれていた。隣接する室内練習場も使用禁止、練習も一人でランニングするぐらいしかできてなかったようや。風呂やトイレが共用の中での隔離生活というのは、精神的にもマイッてしまう。球団は寮生のホテル住まいや、実家への一時帰省を認めたけど、そのほうがいいと思う。体はピンピンしているのに、狭い部屋で一人じっとしてると暗い気持ちになってしまう。

 虎風荘のある兵庫・鳴尾浜は波止場まで歩いていける。僕が寮長やったとしたら「釣りにでも行って気晴らししてこい」と言ってたかな。緊急事態宣言が出ている間は、それすらもアカンのやろうけどね。でも、昔からプロ野球選手は釣り好きが多い。「3密」とは無縁やし、今のご時世では最もいい趣味と言えるんちゃうかな。ルアーやったら餌を買いに店に寄る必要もないんやから。

 僕も子供の頃、父親にハゼ釣りを教えてもらってから、釣りの魅力にハマッた。いろいろと誘いをかけたり、餌や場所を変えたりの魚との駆け引きがおもしろいし、釣れた時の手にプルプルと来る感触もたまらん。今も釣りにはよく出かけるし、生涯の趣味と言える。現役の時も、飲みに行くより釣り糸を垂らしているほうが好きやった。自主トレの期間なんかも、昼は釣りに出かけて、夜にバットを振るという毎日やった。昼間に練習したことがなかったぐらいや。

 シーズン中もナイターが終わったあと、11時頃から約2時間ほど夜釣り。船でなく足場のいい陸からの釣りで、クロダイやタチウオを狙った。クロダイのことを関西ではチヌと言うんやけど、海が汚いから臭いし、釣ったら逃がしていた。タチウオは回遊魚やから持って帰って食べていた。帰りたい時に自由に切り上げられるのもよかったな。糸を垂らしながら試合のことを振り返ったり、ただボーッとしたり、自分にとっては必要な時間になっていた。

 そういえば、西宮球場で阪急の身売りを聞かされた88年の10月19日も、武庫川の一文字埠頭に夜釣りに出かけた。とにかく一人になりたかった。ラジオでロッテと近鉄の川崎球場での最終戦を聴きながらやったけど、身売りのショックで、ただ糸を垂らして茫然としていた。

 プロ野球というのは高校野球と違って、負けても次の日に試合がある。結果が残せなくても落ち込んでいる暇はない。レギュラーで安定した成績を残すには気持ちの切り替えが大事。そのために飲みに出かける選手もいれば、昔なら麻雀する選手も多かった。何かしら気分転換の方法を覚える必要がある。今の時代こそ、釣りはお勧めやな。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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