─表在性の膀胱ガンだったということですか。
C そういうことになりますね。表在性の膀胱ガンであれば、内視鏡手術だけで十分。それでも、患者は医師から「ラッキーでしたね」と言われて納得していたと聞いています。
A そうした説明で全摘術に持ち込んでおいて、さらに再発予防のための抗ガン剤治療に持ち込むというわけだな。
C ところが、この患者の場合、「まずはリンパ節の腫れを取ってから」との名目で、手術前にも抗ガン剤治療を受けさせられていました。もちろん、手術後にも「再発予防」と称して、しっかり抗ガン剤治療を受けさせられています。
A だとすれば、まさに丸儲け。術前の抗ガン剤治療と手術に加えて、さらに半年間くらいの抗ガン剤治療に持ち込めたら、病院としてはOK。逆に言えば、先ほどのE先生の指摘にもあったように、手術だけで患者に逃げられたら、病院経営は成り立たなくなる。
─ところで、抗ガン剤に再発予防効果はあるんですか。
E 臨床試験の結果を見ると「効果あり」とされていますが、そもそもエビデンスは薬屋が作り上げたものですからね。
─薬屋‥‥つまり製薬メーカーのことですか。
E そうですね。薬屋は自社で開発した抗ガン剤を厚生労働省に認可してもらうべく大病院の医師らに依頼して、効果検証のための臨床試験を実施します。そして薬屋主導の臨床試験では、薬屋が望む結果を出さなければならないという暗黙の力がかかってくるのです。
─最初に結果ありき、であると。
D これは私にも言わせてください。抗ガン剤に限った話ではありませんが、特に抗ガン剤の臨床試験では、製薬メーカーが意図する結果が最初にあって、医師たちがその意図に沿う形で臨床試験に臨む、というのがむしろ常識です。
─いわゆる忖度ですね。
D 実際、ある抗ガン剤の再発予防効果を調べる比較試験(患者を本薬投与群と偽薬投与群の2グループに分けて、薬剤の効果を検証する臨床試験)では、製薬メーカーから「少なくとも5年生存率で5%、できれば7%くらいの押し上げ効果を期待したい」とのオファーがまずある。そして臨床試験の責任者も含めた複数の医師らが5〜7%の目標ラインをニラんで、あれこれ忖度に励んだと聞いています。
─それで結果はどうなりましたか。
D 5〜7%どころか10%もの押し上げ効果がある、とのみごとな結果が出ました。
【出席者プロフィール】
A=国立大学医学部長経験者(消化器外科医)
B=公立地域中核病院診療科長(総合ガン治療医)
C=私立医科大学附属病院経営幹部(泌尿器外科医)
D=私立大学医学部附属病院診療科長(緩和ケア医)
E=国立大学医学部特任教授(腫瘍内科医)
司会=医療ジャーナリスト