好条件のオファーを見て、A氏は「詐欺拠点への人材派遣」だと直感する。
「金額を聞いただけでわかるじゃないですか。こりゃ普通の仕事じゃないなと。弟分を問い詰めたら『詐欺です』と認めた。日本人はたとえ不良でも真面目で几帳面。責任感があり、能力もある。さらにオレオレから始まった特殊詐欺の歴史、ノウハウ、名簿などの情報量が他国を圧倒している。しかも、人を送り込んだ時の報酬以外にも、そいつが実績を挙げたら歩合で毎月数十万から数百万円を支払うとのことだった。俺は詐欺系は昔から嫌いなので断ったが、何度も連絡を寄越す。『兄貴、そう言わずにバカでも何でもいいんで送り込んでもらえませんか』とね」(A氏)
国際犯罪の人身売買マーケットにおいて、経験者、つまり犯罪者ほど高い値がつくとは皮肉な話だ。
「日本経済は落ち目と言われているが、実際は今も日本ブランドは強く、製品も人材も圧倒的な信頼を得ている。俺もかつてブラジル人やらフィリピン人やらを手下にして商売をしたことがあるが、奴らの9割はダメ人間。いかにサボるかしか考えない。でも日本人は何か頼むと、徹底的にリサーチしてゴールに向かう。グローバルな観点から見て、民度が高いどころじゃないですよ、それは。国際犯罪市場でも引っ張りだこになる」(A氏)
4月23日には、前出の「KKパーク」で掛け子をしていた30代と20代の男がタイで拘束され、日本に移送される航空機内で愛知県警に逮捕された。両容疑者は、警察官を装って三重県在住の男性会社員から990万円を騙し取ったと見られている。視点を変えれば、日本人が海外の詐欺拠点でしっかりと成果を出している証左とも言えよう。
日本人の詐欺要員をめぐって“争奪戦”が繰り広げられるのも当然かもしれない。その一方、中国マフィアは各国の不良を接待ツアーに招いているようで、
「知り合いの在日中国人の不良もタイに招かれて、接待を受けてきたそうだ。もちろん、アゴアシ女つきだよ。ミャンマー東部に移動して、現地の軍人のお偉いさんも交えて食事会。そして詐欺拠点の視察もして、協力者になっていく。東南アジアの弱小国では、エリアごとに君臨する軍人勢力などがいる。彼らにカネさえ払っておけば、守ってくれるし、自由に悪事ができる」(A氏)
摘発された詐欺拠点は氷山の一角のようだ。
フリーライター 根本直樹
(つづく)
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