ロシアによるウクライナ侵攻は、北欧諸国に安全保障上の危機感をもたらし、デンマークやスウェーデンで徴兵制の強化や復活の動きが広がった。
NATO加盟国であるデンマークでは、これまでも18歳以上の男性に4カ月の兵役を義務づける徴兵制が存在したが、女性は志願制だった。しかし、ウクライナ侵攻後に、2026年から女性も徴兵対象に含める方針が発表された。実現すれば、欧州ではノルウェー、スウェーデンに続き、3カ国目の女性徴兵制の導入となる。
スウェーデンでは、冷戦終結後に徴兵制を廃止し、志願制に移行していたが、ロシアのクリミア併合を受け、2017年に徴兵制を復活させた。18歳以上の男女を対象に、年間約4000人が11カ月の兵役に就く。復活の背景には、バルト海でのロシアの軍事活動の活発化や、志願制での兵士不足がある。国民の反対は少なく、逆にロシアの脅威に対応する姿勢が支持された。スウェーデンはまた、2024年にNATO加盟を果たし、非同盟中立政策を転換。ウクライナへの支援として歩兵戦闘車や自走砲などを供与し、軍備強化の一環としてゴットランド島への常駐軍再配置やサイバー防衛投資を進めている。国防費も大幅に増額する方針が固まった。
フィンランドも2023年にNATOに加盟し、ノルウェー、デンマークとともに地域の連携を深めている。同国では男性対象の徴兵制を維持しているが、予備役は多数擁している。
デンマークとスウェーデンの徴兵制強化やフィンランドも含めたNATO加盟は、ウクライナ侵攻がもたらした地政学的緊張への対応だ。今や、北欧全体で安全保障政策の転換など、国際秩序維持に向けた再構築が加速している。
(北島豊)