青木理「二世三世のボンボンに大胆な改革などできない」/岸田文雄「総理就任582日」を総括する(2)

 岸田政権が誕生した当初は、それまで安倍・菅政権とかなり強権色が強い政権が続いたので、宏池会特有のリベラルな風が吹くことを期待した人は多かったのではないでしょうか。ところが、フタを開けてみれば防衛費の大幅な増額に敵基地攻撃能力の保有、さらには原発の新増設まで打ち出し、安全保障に関しても安倍政権を踏襲しているだけ。安倍元総理の「後継政権」で、ある意味、安倍政権よりも安倍政権的だと思います。

 外交でも、「宏池会らしさ」といったものは見当たりません。日韓関係では、元徴用工問題で大きな進展が見られましたが、あれは尹錫悦政権がかなり大胆に日本の立場を尊重して動いてくれたおかげ。はっきり言って〝棚ぼた〟ですよ。しかも尹政権の支持率は3割台で、今回の解決策に国民の6割が反対しており、このまま日韓関係が順調に推移するかは不透明です。隣国との友好や穏健性を是とする宏池会ならば、ここで訪れたチャンスに、もう一歩踏み出して日韓関係の大きな転換点を作ることもできたのに、安倍派に気を遣ってそれができなかった。

 キーウ訪問は成果と見られているようですが、これも5月のG7広島サミットで議長国を務めるのに、自分だけウクライナを訪問していないということで、かなり無理をして行ったわけで‥‥。そのサミットには、G7以外のインドや韓国といった8カ国の首脳も広島に招待しているわけですから、「やってる感」は出るかもしれませんが、せっかく被爆地・広島でサミットを行うわけですから、核大国・ロシアによるウクライナ侵攻などを受け、アメリカやイギリス、フランスという核兵器保有国の首脳の前で、議長として核兵器根絶を本気で訴えるのが日本の首相に課せられた使命だと思いますけど、地元・広島での人気取りくらいにしか考えていないかもしれませんね。

 本来、防衛費の大幅増や原発新増設よりも他にやるべきことがたくさんあるはずです。特に少子高齢化や労働人口の減少にどう立ち向かうか。最新の厚労省の推計では、2070年に日本の人口は8700万人にまで減少する見通しとなっています。このうち約1割を外国人が占める見通しが示されていましたが、現在の劣悪な日本の難民や外国人政策、入管法の改悪、さらには円安もあって、そんなにたくさんの外国人が日本に来てくれるのか。

 少子化対策についても「次元の異なる」と言っておきながら、たたき台を見れば、保育サービスの拡充など、今ある制度に何かを付け足したものばかり。さらに国には1000兆円を超える借金があって、医療や年金を含めた社会保障の未来像が見えてこない。いずれこの国は破綻するんじゃないか。そんな不安がある中で、子供を産み育てようとは思わないでしょう。

 私は自著「安倍三代」(17年・朝日新聞出版)の取材をしている時に思ったのですが、安倍という人は安倍家に生まれなかったら政治家になっていなかったでしょう。それは岸田総理しかり、今回、岸信夫前防衛相から地盤を受け継いだ信千世氏もまたしかり。二世三世のボンボンの世襲政治では、大胆な改革などできるはずがない。

 今から始めても遅すぎるくらいなのに、まったく危機感が見えてこない。既得権益を背負っているから「現状維持」しか頭にない。日本が泥船とわかっていながら、その船内で椅子取りゲームをやっているような状況です。このまま日本は沈没してしまうのか、それこそ安倍・岸田政権の世襲政治の罪過と言っていいでしょう。

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