中国に対し、20%の追加関税に加え相互関税などで合計145%の関税を課すとしていた米トランプ政権。だが、4月14日には「スマートフォンなどの電子機器について、相互関税から除外する」と発表するなど方針が二転三転。対し中国外務省の林剣報道官は記者会見で、「アメリカは関税を乱用している。関税を極限的な圧力として利用し、自らの利益を追求している」とトランプ政権による独善的とも思えるディール方法を改めて批判した。
当初、中国はアメリカが課すとする関税に対抗し、同じパーセンテージの関税で報復するとしていたが、最終的には「これ以上相手にしない」との方針を打ち出していた。
「ただ、ここでいったん拳をおろしたとしても、中国がこのまま報復措置に出ないというのは考えられない。このニュースを耳にした瞬間、いよいよ次の手を打ってきたなと思いましたね」(国際部記者)
その「次の手」とも思えるのが、15日に中国の国営新華社通信が伝えた「米工作員」3人に対する「指名手配」報道だという。伝えられたところによれば、3人はいずれも米国家安全保障局(NSA)に所属するスパイで、今年2月に中国黒竜江省ハルビン市で開催された冬季アジア大会のシステムや省のインフラ施設に、海外からサイバー攻撃を仕掛け大会を妨害、混乱を図ったとして、当局が指名手配すると同時に、懸賞金を出して情報提供を呼び掛けるという。
「当局は、3人はこの事件だけではなく、中国の通信機器大手『華為技術』(ファーウェイ)などへのサイバー攻撃事件でも実行役と見ているようです。また、冬季アジア大会でのサイバー攻撃事件には、カリフォルニア大とバージニア工科大も関与していると発表しているため、今後さらなる指名手配者が発表される可能性もあるでしょうね」(同)
林剣報道官は同日の記者会見で「アメリカ政府は、中国の重要な情報インフラや市民の個人情報に深刻な損害を与え、極めて悪質。即時中止を求める」と痛烈に批判したが、これまでにも、米中の工作員がそれぞれの国で逮捕・勾留され、実刑を受けたという事例も少なくない。
「米中対立の長期化に伴い機密情報の収集や漏えい防止の重要性が高まったことで、近年では以前にもまして米中間でのスパイ戦が激しさを増していることは事実でしょう。特に最近のスパイ活動ではAI(人工知能)を駆使した手法が使われるようになったことで、現状、中国とのスパイ戦は対ロシアより、さらに多角化していると言われています」(同)
現在、米国は英国やオーストラリア、カナダ、ニュージーランドとともに「ファイブ・アイズ」という枠組みを通じ情報を共有し、中国のスパイ活動に対抗しているが、米メディアによれば、中国に関しFBIが捜査中のスパイ案件は数千件に上るとされ、その大半がサイバー関連分野だという。
「一昨年、米CBSの報道番組で『ファイブ・アイズ』に加盟する5か国の情報機関トップが出演したことがあるのですが、そこで英秘密情報部(MI6)長官から語られた中国関連のスパイ事案は、なんと約2万件。これは、どの国における事案よりも圧倒的な数です。つまり、中国は様々な国にとんでもない数のスパイを送り込んでいる可能性があるということです」(同)
そんな中国がトランプ関税の報復措置として、今回の「米工作員」3人に対する「指名手配」を皮切りに、今後、中国に潜入する米国スパイを一網打尽にするのでは…。専門家の中にそんな懸念の声も広がる中、「やられたらやり返す」と公言するトランプ氏、迎え撃つ習近平氏とのチキンレースは、まだまだ続きそうだ。
(灯倫太郎)