ウクライナのウメロフ国防相が、クルクスでロシア・北朝鮮連合軍とウクライナ軍との間で衝突があったと初めて明らかにしたのは11月6日のこと。いよいよこれで両軍の戦いに火ぶたが切られたことが公になったわけだが、そんな中で行われた米大統領選では、「ウクライナ戦争を1日で終わらせる」と明言していたトランプ氏の次期大統領就任が決定。世界を取り巻く状況に大きな変化が現れる可能性が出てきた。
「『アメリカ・ファースト』を掲げて再選したトランプ氏は、言葉通り『強いアメリカ』に戻すため、内需拡大に大きく舵を切っていくはずです。そうなれば、突然ウクライナへの支援を打ち切ると言いだすことも十分考えられる。ハリス副大統領に期待を寄せていたゼレンスキー大統領も、いち早くトランプ氏に祝電を送ったようですが、今後のことを考えると、内心穏やかでないことは想像に難しくありません」(外報部記者)
そしてもう一人、トランプ氏就任を戦々恐々とした思いで受け止めたであろう首脳がいる。それが、韓国の尹錫悦大統領だ。
トランプ氏が韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線を挟み北朝鮮の金正恩氏と握手をかわした後、現職の米大統領として初めて境界線を歩いて越え、北朝鮮側に入ったのは、19年6月30日。2人は18年6月にシンガポールで、19年2月にハノイで米朝首脳会談を行ってきたが、トランプ氏訪朝でその距離が一気に縮まったかにも見えた。しかし、その後2人は数十通の親書を交換するも、最終的には決別。ただ、トランプ氏は今年7月の共和党「大統領候補指名」受諾演説で、「私が戻れば彼とうまくやる。彼も私の復帰を望んでいる」と強調していた。
「そう言われれば、正恩氏としても自分を『ヒトラーのような独裁者』とこき下ろすハリス氏ではなく、トランプ氏が大統領に返り咲けば交渉の道も開けるはず、と考えていたのは当然のこと。実際、トランプ氏は選挙期間中にも『核兵器や他の多くのモノを持っている者と関係を結ぶのは悪いことではなく良いことだ。私が再選を果たしていたならば米朝合意はとっくに成立していたであろう』と繰り返し発言していますからね。正恩氏にとっては、いくらアプローチしても一切無視するバイデン氏よりは、はるかに『くみしやすい相手』と考えても無理はないはずです」(同)
8日昼の時点ではまだ、「トランプ当確」について北朝鮮からは公式の反応が出ていないが、一部報道によれば北朝鮮はすでに“トランプシフト”を敷いており、10月には、かつての米朝首脳会談に同行した幹部やアメリカ通が、外交、防衛の要職に起用されているとの情報もある。
「10月にスイス大使に任命されたチョ・チョルス氏は、北朝鮮外務省の北米局長などを歴任してきたアメリカ通で、崔善姫外相にも近いに人物だと言われます。スイスは過去に米朝の非公式協議が行われてきたスウェーデンとも近く、実際に米朝協議が行われた場所でもある。現段階ではこの人事が何を意味しているのかはわかりませんが、北朝鮮内に慌ただしい動きが起こり始めていることは間違いなさそうです」(同)
トランプ氏が金正恩氏と交渉を再開するとなれば、当然、北朝鮮軍が派兵されているロシアのプーチン氏との問題も出てくるはず。ゼレンスキー大統領と尹錫悦大統領にとって、しばらくは眠れない日が続くかもしれない。
(灯倫太郎)