「南の国境と一部の縦深地帯で、大韓民国の人間のクズが飛ばした大型風船29個がまたもや発見された。幼稚で汚らわしい行為が続く場合、我々の対応方式の変化が余儀なくされるだろう」
これは、韓国の脱北者団体が飛ばしたビラ入りの風船に対し、北朝鮮の朝鮮中央通信が7月16日に伝えた金正恩総書記の妹・与正党副部長の談話だ。北朝鮮でナンバー2と言われる与正氏は正恩氏の有能なスポークスマンとしても知られ、絶対的な権限が与えられているとされてきた。
ところがその与正氏について、韓国メディアの取材に対し「(北朝鮮に住む)2500万人全員と同様、奴隷に過ぎない存在」と衝撃の事実を言い放った人物がいる。2023年11月に韓国に亡命した北朝鮮の元在キューバ大使館参事官、リ・イルギュ氏である。
「これは17日付の韓国紙『朝鮮日報』に掲載されたリ氏のインタビュー発言。同紙によれば、北朝鮮で国営メディアを通じて発表される与正氏名義の米韓批判談話などは全て正恩氏の指示により作られた文言で、決定前に与正氏がその内容を目にすることはできないというんです。つまり、“与正談話”とは銘打っているもの、何のことはない、彼女はただ文章を読み上げているに過ぎなかったことが明らかになったというわけです」(外報部記者)
リ氏はインタビューの中で、「毎回自分の名前が使われるのは(与正氏も)気の毒。(与正氏の)力がどうであろうと(党内の地位が)2番目、3番目などというのは全部うそ。『最高尊厳』(の正恩氏)以外はすべて奴隷に過ぎない」とも述べているが、そんな「最高尊厳」が今、目の中に入れてもいたくない存在が、愛娘のジュエ氏だという。
リ氏によれば、正恩氏はジュエ氏を「姫」と呼び、外出先に連れ出しては“お披露目”する溺愛ぶりなのだとか。リ氏も彼女が後継者となることは確実だろうとしているが、「絶対権威・崇拝を受けるには、神秘性がなければならないが、今のように露出されていると神秘を感じるだろうか」と疑問を呈し、さらに「これから自分の子どもたちが、あの幼い者の前でかがんで生きなければならないという現実にあきれた」ことも脱北を決意する理由の一つだったと語っている。
「リ氏は北朝鮮の『血盟』とも呼ばれるキューバで2度勤務し、北朝鮮外務省きっての『キューバ通』として知られた人物。キューバのほか、アフリカやアラブ、ラテンアメリカ局に所属したこともあり、脱北前には韓国とキューバの国交樹立の動きを阻止する業務も担当したそうです。ところが、職務評価などを巡って外務省本部と対立。結果、体制への嫌気と未来への悲観から亡命を決意したと語っています」(同)
北朝鮮では、在英北朝鮮大使館でナンバー2の地位にある公使を務め、16年8月に脱北した韓国の元国会議員、太永浩氏をはじめ、トップエリートである外交官の脱北事例が相次いでいる。19年7月には、駐イタリア大使代理の任にあったチョ・ソンギル氏も現地で消息を絶った後、脱北。シリアやクウェートなどで大使代理を務めたリュ・ヒョヌ氏も家族と共に脱北し、19年9月に韓国入りしている。こうした事態に激高しながらも阻止できない歯がゆさでいっぱいであろう正恩氏。リ氏はこう語っている。「民心がすでに離れていることを政権もよく知っているので、恐怖政治の度合いを高めている」。
そんな中、奴隷に過ぎないという妹の与正氏の本心やいかに。
(灯倫太郎)