朝鮮半島情勢の専門家2人が認める「健康不安」だが、国家情報院の情報には額面どおりに受け取れない部分もある。辺氏が指摘する。
「不眠症は16年にも報告されていますが、そのまま受け取ってよいものか。というのも、父親の金正日もそうでしたが、金正恩は極めて夜型の人間なんです。党幹部を集めての会議が深夜12時過ぎに行われ、ミサイル発射や現地工場などの視察もほとんどが深夜。普通ならありえないことでしょう」
今年3月25日の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、「偉大な親の1日」との見出しを掲げ、深夜2時過ぎに東海岸にある水産事業所を視察したことを報じた。まるで寝る間を惜しんで仕事に専念しているかのようだが、単に昼夜逆転して昼間に寝ていれば、不眠症とは言いがたい。
「あらためて数えてみたら、韓国発の健康不安説が持ち上がったのは、金正恩が権力を継承した11年から、実に7回もあった。国家情報院としては健康不安説を持ち出して、北朝鮮への心理的な揺さぶりをかけたいのでしょう」(辺氏)
独裁国家トップの健康不安は世情不安に直結するだけに、情報戦の側面も無視できない。国際情勢から見ても、北朝鮮の国民の不安を煽るには、千載一遇のチャンスと言えよう。それは金総書記の顔色にも表れているという。
「トランプ政権では、アメリカと対話が進み、あの頃はずいぶんリラックスした表情をしていました。が、北朝鮮に強硬路線を敷く尹錫悦大統領が誕生すると、ずいぶん疲れた表情が目立つようになっています。そうしたストレスが、健康にも影響を与えているはずです」(高氏)
さらに、金総書記には他にもストレスの要因がある。後継者としてデビューした09年頃、その体重は90キロほどと言われた。14年間で体重が50キロも増えたのだから、遅かれ早かれ病に倒れる可能性も高い。そこで浮上するのが後継問題。これがストレスの大きな一因となっているという。
このところ、どこへ行くにも、金総書記は次女とされる金ジュエを帯同させている。後継者と目されているが、年齢は10歳になるかならないか。少なくとも、最低10年は金総書記が踏ん張らないといけない。
「今、金正恩の身に何かあれば、妹の金与正が受け継ぐことは衆目の一致するところ。主要行事で必ず金正恩のそばに控えているわけですからね。ジュエが成人したところで、与正からトップの座を譲られるかは、そう簡単にはいかないでしょう。与正には性別不明ながら2人の子供がいるとされています。18年の平昌オリンピックの時に第二子の妊娠が確認されているので、第一子はジュエと年齢的に近い。与正としては我が子に継がせたいとなるのではないでしょうか」(辺氏)
これもまた、金総書記の健康を害する一因になっているのかもしれない。