政府が「AI戦略会議」を5月11日に開催するなど、ChatGPTを始めとする生成AIに関するニュースが尽きない。アメリカでは、24年に行われる大統領選挙に向けたテレビCMにまで、生成AIが利用されている。
「4月末に共和党が作成した民主党攻撃のテレビCMがそれです。『Beat Baiden(バイデン叩き)』とのタイトルがつけられたもので、AIが生成した映像で構成されています。『24年の大統領選はバイデン氏が再選しました』とレポーターが伝えると、喜ぶ陣営の画像に『もし過去最弱の大統領が再選されたら何が起きるか』という問いがかぶせられる。すると画面は切り替わり、中国が台湾侵攻したというニュース、災害で行き場を失ってさまよう人、地方銀行の大量閉鎖、そして米国境に不法入国者が押し寄せる…等々の画像が続き、『これがAIによって予測されたバイデン再選後の未来だ』との注釈が入るのです。つまりこのCMは、人間が特定のイデオロギーに基づいてプロパガンダ的に作ったものではなく、AIに聞いて示された未来像なのだから、客観的なものなのだと言いたいわけです」(外信部記者)
人間が予測するより偏向がなく正確と言わんばかりで、いかにもアメリカのご都合主義といった感がしないでもない。ただ、生成AIがここまで社会に浸透したという一例でもあるだろう。
一方で生成AIに関しては、きちんと使用ルールを設定しないと社会に大きな混乱をもたらすとの警鐘的な見方がある。イタリアでは個人情報保護の問題からChatGPTの使用が一時停止されたり、欧州では犯罪利用の観点などからも安易な利用を危険視。中国では逮捕者まで出した。
「4月下旬に鉄道事故で9人が死亡というニュースが拡散されました。ところがこれはあたかも政府発表に基づいたニュースを装ったフェイクニュースだったのです。そのため5月8日に、警察当局がこれを作成した男を拘束したのです」(同)
中国ではもちろん、AIに限らず政治的な言説に対し、厳しい検閲体制を敷いている。これには政権に批判的な発言を禁じることと、外国メディアのニュースをなるべく国内に持ち込ませないという2つの意図がある。だから中国でChatGPTを悪用したことで逮捕者が出るのは当然のなりゆきで、まして中国は4月に生成AIの規制を発表したばかりで、今回の逮捕は極めて見せしめ的な要素が強いと思われる。
ただ、アメリカと中国で起こったことは、生成AIを利用した人々の「悪意」が、軽々と社会に浸透することを表しているようだ。
(猫間滋)