侍ジャパン栗山監督の「組織力と観察力」大研究(2)「2番・周東」プランは幻に

 優勝後のインタビューでは「必ず打つと信じ、絶対に抑えると信じて送り出した」と「信じる力」を何度も口にした栗山監督。

 その栗山監督が大きく動いたのは準々決勝イタリア戦。それまで4試合で14打数2安打、打率1割4分3厘と不振の〝村神様〟こと村上宗隆(23)を初めて4番から外した。

 その結果が出たのは、準決勝メキシコ戦で、9回裏4対5の1点ビハインドの場面。無死1、2塁のチャンスで村上に打順が回る。

「この日も好機に見逃し三振など4打席無安打。ベンチでは、送りバントで牧原大成(30)が用意していた。しかし、栗山監督は『最後に決めるのはムネだ』と、信じヒッティングを選んだ」(スポーツ紙野球担当デスク)

 このガマンの采配が的中。村上のセンターオーバーのタイムリー打で見事1塁代走の周東佑京(27)がホームインし、劇的サヨナラを演出した。

 角氏はこう見る。

「今大会で栗山采配の最大のクリーンヒットは、村上と吉田正尚(29)の打順を入れ換えたことでしょう。打順を下げたというより、大谷と村上は同じ中長距離タイプ。大谷の後で村上は意識してしまったが、間にタイプの違う吉田を入れたことで村上が復活できた。この打順変更なくして村上の復活は考えられなかった」

 栗山監督は、優勝後にスポーツ紙に手記を寄せているが、その中で、中国戦国時代の儒学者・孟子の「至誠にして動かざる者は未だ之れ有らざるなり」(誠を尽くせば、人は必ず心を動かされる)という言葉を引用している。

 だが、こうした試合での選手起用だけが栗山采配の全貌ではない。

 WBC担当記者がこう打ち明けた。

「栗山監督は選手の観察力にも長けている。宮崎合宿での選手の顔合わせを兼ねた食事会では他の選手が和気あいあいとしているのに、源田壮亮(30)と中野拓夢(26)がお互いに一度もビールをつがなかったことをかなり気に留めていた。実際、1次ラウンド第2戦の韓国戦で右手小指を骨折した源田に代わって、次のチェコ戦に出場した中野が悪送球で先制点を許してしまった。その瞬間、ベンチの源田の表情が‥‥。もっとも、同じポジションを争う代表選手にはよくある話ではありますが」

 その一方、組織を重んじる向きもある。

「先発や打順のオーダーはすべてコーチ任せ。ピッチングでは吉井理人投手コーチ(57)が監督よりも先に佐々木朗希(21)の先発を漏らしていたので誰が監督なのかと思った。また、打線に関しては2番に足の速い周東を起用する腹案を持っていたが、吉村禎章打撃コーチ(59)の推す左の大砲をズラリ並べる重量打線が採用された。組織の中では役割分担を重視するという考え方があるようです」(WBC担当記者)

 名選手、名監督にあらず。専門コーチに全幅の信頼を置くことができるのも栗山采配の肝と言えるだろう。

(つづく)

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