現役時代、プロレスラーとして世界を股に掛け名声を得る一方、サイドビジネスにも入れ込んだ。
特に力を入れていたのは、アリ戦の前に立ち上げた「アントン・ハイセル」の事業だ。ブラジル国内で獲れたサトウキビの搾りかすを有効活用し、バイオ燃料として使用する計画で、ブラジル政府を巻き込んだビッグプロジェクトを展開。しかし、プロレス興行が大入りでも湯水のごとく資金が事業に注ぎ込まれ、最後はブラジルの超インフレで枯渇。数十億円の借金を背負うハメになった。
私的流用を指摘され選手からクーデターまで決行されて痛い目に遭っても、猪木の野心は冷めるどころか、闘魂は燃え盛るばかり。
わずかな磁力で半永久的にエネルギーを生み出すという「永久電気」の開発にも、心血を注いで取り組んでいた。当時を知る新日本プロレス元社長の草間政一氏(71)はこう述懐する。
「研究所は筑波にあって、発明にかかる経費だけで毎月600万〜800万円、多い時には1000万円を超えていました。あの頃はパチンコ業界の勢いがあって、よく金主として借りていましたね。もうずっと自転車操業。猪木さんはお金を返さないから、だんだん貸してくれなくなって、新日本から借りてくれとか、私がよく保証人にされました」
それでも、ついに開発の成果が実り、02年3月に大々的に記者会見が開かれた。世紀の発明に海外メディアも駆けつけて、実証実験を行ったところ、
「会見場の長机の上に発電機らしき装置を置き、スタートボタンを押して電球がついたら成功というもの。しかし、一向に点灯せず。不穏な空気が流れる中、装置の蓋を開けたら、乾電池がチラッと見えたんです。あきれて、詰めかけたメディアは撤退しました」(取材に訪れたマスコミ関係者)
世間を見返すはずが、まさかの大失敗。先の草間氏もこう話す。
「何もないところから電気を生み出せたら、魔法みたいな話。研究に関して、科学雑誌でも批判されましたが、猪木さんは『発明とはそういうもの。みんながダメだというものを発明するのが発明家だ』と言って、耳を傾けず、夢を追いかけていました」
バイオビジネス事業や永久電気は成功しなかったが、先見の明もあった。70年代に設立した貿易会社「アントン・トレーディング」は、タバスコの代理店契約を結び、日本に広めている。ただ、当時は激辛ブームではなかったため、大儲けにはつながらなかった。その他にも、
「今でこそクロックスが普及していますが、サンダルとスリッパの間の履物が流行ると読んだ猪木さんは90年代後半、サンダルとスリッパを合わせた『サンダリッパ』をプロデュースしている」(プロレス関係者)
一方、女性関係に目を向けると、下記の表にもあるように、たびたびスキャンダルを起こした。印象的なのは、06年に浮上した「愛人交際疑惑」だろう。
「猪木さんの行く先々にカメラマンで、小柄なナイスボディの女性が同行するようになった。当時、3番目の奥さんと結婚していたが、六本木の彼女のバーにも週3くらいで通っていて、『愛人説』が浮上したのです」(スポーツライター)
週刊アサヒ芸能でもいち早く報じたが、取材時点でお相手の彼女が編集部に何度も電話を掛けてきて「困っちゃうのよね〜」と、甘い声で抗議されたのも懐かしい話。その後、17年に猪木は彼女と結婚している。
「こんなプロレスを続けていたら、10年もつ選手寿命が1年で終わってしまう」との名言も残したが、スキャンダル史からも生き急ぐ姿が伝わってくる‥‥合掌。
【燃える闘魂!スキャンダル史】
66年:海外修行から日プロに凱旋するはずが、豊登に口説かれ「太平洋上の略奪」で離脱
71年:日プロで会社改革を志すも、乗っ取り疑惑で追放処分に
82年:タイガーマスクのキャラクター使用料などを巡り、漫画原作者の梶原一騎と遺恨勃発。大阪のホテル一室で「監禁事件」発生
83年:ホーガンの斧爆弾で猪木が〝舌出し失神〟。自作自演説が流れ、坂口征二は〈人間不信〉に
83年:同族会社「アントン・ハイセル」関連の事業で多額の負債を抱える。クーデターも勃発し、新日本プロレスの社長を辞任
86年:六本木の美人ホステスのマンション宅を出たところを「フォーカス」され、不貞疑惑が浮上。丸坊主になってけじめをつけるも、2年後、倍賞美津子と離婚
87年:たけしプロレス軍団が襲来。突然のカード変更と不可解決着に観客が暴動を起こし、新日本は両国国技館を出禁に
89年:福島県会津若松で講演中、暴漢に刃物で襲われる。左耳を負傷したまま、講演を最後まで行う
91年:2月に都知事選に出馬表明したものの、3月に突発的に出馬断念を宣言。説得工作で降りたことによって、莫大な借金がチャラになったという噂も流れた
93年:スポーツ平和党で公設秘書をしていた女性に脱税疑惑などで告発される
95年:北朝鮮で奇跡のプロレス興行を開催。2日間で計38万人もの観客を集めたが、ギャラの未払いで新日本が多額の借金を背負う
06年:女性カメラマンとの「愛人交際疑惑」が浮上。その後、17年に結婚した
14年:参院予算委員会で「元気ですか!」と叫び、山崎力委員長に「心臓に悪い方もいる」と注意される
*週刊アサヒ芸能10月20日号掲載