ナベツネVS経産省「スポーツ賭博反対キャンペーン」の深層(2)消えた「巨人の威光」

 01年3月に発売が開始されたtoto(スポーツ振興くじ)は、サッカー・Jリーグの予想を中心に販売され、お馴染みになったが、プロ野球界は腰が重かった。超党派のスポーツ議連が導入を検討しても、15年と18年にオーナー会議で見送られている。

 先に渡邉氏は賭博が大嫌いであることに触れたが、そのきっかけは69年に球界を揺るがした「黒い霧事件」にある、と山村氏は指摘する。

「プロ野球関係者が野球賭博に関連した八百長行為を行っていたことが発覚し、この時も『読売新聞』が大々的に報じました。渡邉氏の、金銭が絡めば予期せぬことが起こる賭博は断じて許さないという論調は、当時から変わっていないのです」

 今回の一件で、改めて強烈な存在感を示した渡邉氏だが、御年96歳であるにもかかわらず、今年に入ってからは公の場に出る機会が増えている。3月に都内で3年ぶりに開催された「読売巨人軍激励会」に車椅子に座ったまま登壇。「今年は断固、優勝」とゲキを飛ばすと、6月に行われた元都知事で作家の石原慎太郎氏(享年89)のお別れ会では発起人を務めた。渡邉氏を知る財界関係者は近況をこう語る。

「さすがに話しぶりは年相応になりましたが、頭の回転の速さは健在。ただ、以前はスズムシの繁殖や新しい文房具を集めるのが趣味で、育てたスズムシをケースに入れて配ったり、パステルカラーの書類ケースをうれしそうに持ち歩いていた。最近はそういう姿を見かけなくなりました」

 一方、本人が嫌っていると言われる「ナベツネ」の愛称は今や球界では広く知れ渡っている。ところがここ最近、求心力に陰りが見え始めたと伝えられているのだ。

 96年に巨人のオーナー就任後、球団会長、取締役最高顧問として15年まで異彩を放ち、時に、「無礼なことを言うな。分をわきまえなきゃいかんよ、たかが選手が」発言で獰猛ぶりを発動。それだけで影響力の強さがうかがい知れたものだ。

 渡邉氏が球界を離れても巨人は一目置かれていたが、ある異変についてプロ野球関係者はこう明かす。

「今オフから導入が検討されている『現役ドラフト』で、原辰徳監督(63)は『今のままの中身では到底、賛同できない』と否定。しかし、阪神の谷本修取締役オーナー代行(57)はやるべきだと主導し、1球団ずつ説得して回りました。巨人も最終的に歩調を合わせることになり、反対の巨人が初めてひっくり返ったと話題になったんです。それと、もう1つは『セ・リーグのDH制』問題。19年から原監督は導入を提唱していますが、セ5球団は一向に興味を示さず、巨人の威光が落ちたと揶揄されていました」

 12年を最後に日本一から遠ざかり、今シーズンもセ優勝が絶望的なチームより、渡邉氏は新たな野望に興味を向けていた。

*ナベツネVS経産省「スポーツ賭博反対キャンペーン」の深層(3)につづく

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