あのプーチンが、どうしてもイスラエルに謝罪しなければならなかった理由とは

 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、イタリアのテレビ番組「Zona Bianca」のインタビューに答え、「ヒトラーにもユダヤ人の血が流れていた」と発言したのは5月1日のこと。ラブロフ氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領がユダヤ系であるにもかかわらず、非ナチ化がウクライナ侵攻の目的だと正当化するロシア側の主張をなぞり、ユダヤ人の血が流れているヒトラーが、ユダヤ人弾圧をしたのだから、ユダヤ系のゼレンスキー大統領が同じ思想であってもおかしくないという持論を展開。ところがこの発言に対し、世界各国から猛烈な非難が集中することになった。

 ウクライナのゼレンスキー大統領はラブロフ外相の発言に「言葉を失う」とし、「ロシアは第二次世界大戦で学んだ教訓を完全に忘れ去ったとしか考えられない」と激怒。ドイツ政府報道官は「ばかげたプロパガンダ(政治宣伝)だ」とし、カナダのトルドー首相も、「ラブロフ外相の発言は信じがたく、容認できない」と非難するなど、波紋は広がるばかり。

「特に、ユダヤ人が人口の7割超とされるイスラエルの反応は厳しく、同国のラピド外相は『ユダヤ人はユダヤ人を殺していない。ユダヤ人を反ユダヤ主義と非難するのは最低レベルの人種差別だ』と激しく批判。即刻、駐イスラエル・ロシア大使が外務省に呼び出され、事情説明に四苦八苦だったと言われます」(国際問題に詳しいジャーナリスト)

 そこでロシア側の対応が注目されていたが、5日、プーチン大統領はイスラエルのベネット首相と電話会談を行い、その中で問題の発言についてプーチン氏から謝罪があり、ベネット首相がその謝罪を受け入れた、とイスラエル政府が発表。各国に衝撃が走った。

「これは、イスラエル首相府がツイッターで明らかにしたものですが、ロシア政府は謝罪に関して言及せず、あくまでもプーチン大統領とベネット首相がナチスによるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を含め第二次世界大戦の犠牲者を思い出すことの重要性で一致したという説明するにとどめています。とはいえ、あの怖いもの知らずのプーチン氏が謝罪することは極めて稀なケース。つまり、さすがのプーチン氏も世界中のユダヤ人を相手に対立するわけにはいかないということでしょう」(同)

 というのも戦争終了後、孤立したロシアを再建していくための生命線となるのが経済の回復だ。そして現在、世界経済の中枢を担うとされるのが、ユダヤ人創業者が運営するグローバル企業で、金融からITまでどの分野をとってもそうした企業が世界をリードしている。つまり今回のラブロフ発言は、それらすべてのユダヤ系有力企業を敵に回す可能性もあり、プーチン氏としてもそれだけは避けたかったはずだ。

 異例ともいえるプーチン氏の謝罪でなんとか火消しされたかに見える暴言問題。9日の「戦勝記念日」に、赤の広場で何を語るのか、世界の注目が集まっている。

(灯倫太郎)

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