「こんばんは〜。ちょっとお時間いいですか」─。夜間に自転車に乗っていると警察官に呼び止められ、ドキッとした経験はないだろうか。あれは一体、どういう理由で、何を狙って行われるものなのか。禁断の舞台裏を、元警察キャリアが全て明かした。
警察官が市民に対して行う職務質問(通称・職質)。それが犯罪の予防や抑止、さらには発見・摘発に絶大な効果を発揮していることは間違いない。とはいえ、いざ自分が当事者となった場合の鬱陶しさは何とも形容しがたい。
一度も声をかけられた経験がない人がいる一方、一日に何度も、という人もいて、「職質される」基準も当事者には不明瞭。そんな職質の謎を解き明かしたのが「職務質問」(新潮新書)を出版した古野まほろ氏だ。古野氏は東大法学部卒業、フランスのリヨン第三大学修士課程修了の元警察キャリアで、警察署、警察本部、海外などで勤務した後、警察大学校主任教授を務めて退官。現在は本格ミステリーを中心に、多くの作品を手がける作家として活動する。
そこで古野氏を直撃。謎多き職務質問の裏側をぶっちゃけてもらった。
まず職務質問の法的根拠は、警察官職務執行法第二条にある〈警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる〉という定義と、裁判所の解釈・判例に基づいているとされるが、
「要約すると、主語と述語だけを抜き出した『警察官は‥‥停止させて質問することができる』ということになり、この『停止』や『質問』が、職務質問における警察官の法的な権限ということが分かります。ただ、『停止させて質問することができる』という規定は、相手方に停止の義務を課すものではなく、あくまでも『相手方の自由な意思で停止するよう求め、そのための説得ができる』『自由な意思で停止してくれた相手方に質問をし、回答するよう求め、そのための説得ができる』という権限です。なので、街中で警察官が最初に話しかける際の口調は『防犯警戒をしています。ちょっとお時間いいですか』。いきなり『おい、こら待て』といった物言いはしません」
つまり、警察官による職質は、あくまで任意。停止させて質問はできるが、理論上は純度100%の「お願い」ということになる。
「ただし、任意の職質に必要性や緊急性、それらを踏まえた相当性などの役札が揃った時には、一時的で強制未満ですが、実力行使ができてしまう。裁判所が認めるところの、いわゆる『有形力の行使』です。これと『任意』という言葉のイメージとのズレが、テレビドラマ等でよく登場する『これは任意ですか、強制ですか』『任意なら帰ります』といった、時に緊迫したやり取りを生む要因になっているのかもしれません」
*「週刊アサヒ芸能」12月25日号より【中編】につづく