世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「V逸!阪神は形がバラバラに崩れた」

 セ・リーグはヤクルトが阪神を振り切り、6年ぶりの優勝を飾った。2年連続の最下位チームで、僕の予想も含めて下馬評は低かった。Aクラスに入るには、投手陣、特に先発投手の駒が少なすぎると思っていた。しかも開幕3連戦は阪神を相手に3連敗。この最悪のスタートから、最高のゴールを迎えるとは想像もできなかった。

 一番の勝因は、勝利の方程式といわれるブルペン陣の整備に成功したこと。規定投球回に達した先発投手が一人もいない中での優勝やから、いかにリリーフ陣が頑張ったか分かる。抑えのマクガフ、セットアッパーの清水、今野の3人が60試合を超える登板数ながら、シーズン最後までガス欠しなかった。10月の勝負どころまで4日連続登板は避けるなど、うまいこと休ませていた。現役時代にストッパーを務めた高津監督ならではのやりくりが光った。

 攻撃面でも辛抱強さがあった。1番の塩見、オスナ、サンタナの外国人など調子が悪くなっても試合に使い続けることで、メンバーを固定。村上を4番に据えた打線の形を頑丈にしていった。夏場には阪神と巨人のマッチレースとみられていたが、懸命に離れずついていき、9月下旬には13戦無敗の快進撃で首位に浮上。勝つことで、チームの結束が徐々に強まっていった感じがある。

 阪神は一時は独走態勢となって、関西ではマスコミを含めて優勝ムードになっていたけど、甘くはなかった。ヤクルトのマジック点灯後も意地の粘りはあったものの、残念ながらチームの形はヤクルトと対照的にバラバラに崩れてしまった。前半戦の最も強かった頃はマルテ、サンズの両外国人と大山、新人の佐藤輝の4人を並べて、破壊力のある打線を組めていた。下位打線でも梅野が勝負強い打撃を見せていた。

 ところが、後半戦は佐藤輝の当たりに急ブレーキがかかってベンチを温めることが多くなる。サンズがバテて、大山も不振に陥った。梅野も試合に出なくなった。最後はマルテまで「俺が打たなアカン」と気負いだし、ボール球を振るようになって調子を落とした。

 やっぱり、打線というのは「線」になってこそ、強みを発揮する。全員が調子いいなんてことは少ない。誰かが調子悪くなれば、ほかがカバーすればいい。ベンチも調子が悪いからといって簡単に外さず、我慢することが必要。一人を外すと、前後のリズムまでおかしくなってしまうことがある。今年の阪神打線がその典型。後半戦に佐藤輝をスタメンから外すようになった頃からおかしくなっていった。佐藤輝は球界の宝とも言える逸材。何十打席ノーヒットが続こうが、試合で使い続ければ、そのうち調子は上がるはずやった。まずは代打で結果を残してからとか、中途半端な起用で深みにハマってしまった。

 勝てば残り2戦のヤクルトにプレッシャーをかけられたはずの今季最終戦は、中日相手に完封負け。決勝点は糸原の悪送球によるもので、12球団最多失策の守備のほころびも大事なところで出た。貧打と守備、優勝するには何が足りなかったかハッキリしている。今年の春季キャンプでは名手の川相を臨時コーチとして招いたけど、結局、やるのは選手。守備だけでなく、投球、打撃、走塁すべてそう。教えられるだけでうまくなるなら、2軍の選手も苦労せんということやね。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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