「テレビ非保有者やNHK未契約者にも番組のインターネット配信を提供する」
総務省がNHKに要請していたネット配信の社会実証がおこなわれることになり、前田晃伸NHK会長が9日の定例会見でこの問題について言及した。社会的役割の検証を目的として、テレビを持たない若者や未契約者でも、メールアドレスなどの入力でNHKプラスを限定利用できるというものだ。
しかし、民放各社からは「それは受信料を収入源にしているNHKだからこそ出来ること。肥大化につながりかねない」とNHKのネット事業について反発が多く、さらには「社会実証と称して、NHKの受信料未納者をゼロにすることが目的なのでは」といった声も上がっている。
放送ジャーナリストが語る。
「NHKの2020年度決算によれば、事業収入約7100億円のうち受信料収入は約97%。受信契約対象世帯のうち、支払率は8割程度で、残りの2割の900万件以上が未納となっています。しかも、受信料徴収の経費が、受信料収入の1割を超えるという状態がここ数年続いており、NHKとしては何としても未納者から徴収したい。そこで、手を変え品を変え徴収方法を模索している、というわけです」
昨今では、未納者世帯に督促状を送った後、支払いに応じない場合は民事訴訟を起こすなど、強硬手段をとるケースも増えている。そんな中で「驚きの奇策」とされるのが、日本郵便が6月からスタートした「特別あて所配達郵便」を利用した、〝ポスティングもどき〟の戦略なのだという。
「『特別あて所配達郵便』というのは、住所を書くだけで郵便物を届けてくれる、通称『宛名なし郵便』と呼ばれるもの。NHKは受信料を世帯ごとに徴収しているため、極端な話、受取人が誰であれ請求書が届けばいいわけです。ところが、郵便の場合は宛名を書かなければ利用できず、そこがネックだった。その点、特別あて所配達なら宛名がなくても郵便は届く。後はそれをしつこく繰り返せば、下手な鉄砲も数打ちゃ…の理屈で徴収できる可能性がある。日本郵便がサービスを発表すると、武田良太総務相が後押しし、すぐさまNHKが乗っかるという構図からも、NHK受信料徴収のための試みだと見られています」(前出・ジャーナリスト)
とはいえ、このサービスを利用するには、1通あたり200円の特別料金がかかる。つまり、84円の封書なら284円、はがきの場合は263円と割高になるため、当然、個人で利用するはずもなく、大手企業も手を出しづらいため、やはり「現在は、NHKが独占している状態だと思われる」(前出・ジャーナリスト)とか。
ただし素朴な疑問として、いくら「宛名なし郵便」で督促状が届いたところで、効果はあるのだろうか。前出のジャーナリストによれば、
「直接訪問する人件費や労力など、受信料徴収の営業経費が700億円超にも膨らんでいることを考えれば、費用対効果ははるかに高いでしょう。日本郵便もコロナ禍で業績が低迷、新たな収入源を模索していたところですから、このサービスが軌道に乗ればウィンウィンの関係になるはず。ま、思惑通りにいけば、ですがね」
かつてNHKの改革を訴えてきたのは、前総務大臣の高市早苗氏だが、もし高市氏が総理の座に就いたら…。行方が気になるところだ。
(灯倫太郎)