2年ぶりの開催となった五月場所。なのに、両国国技館は寒々とするばかり。歓声も金星もないから? いや、横綱候補であるはずの大関たちがふがいなく、ただファンも呆れているだけ。そんな4人が陥落寸前の土俵際で繰り広げる悪あがきこそ、皮肉にも今場所を熱くさせる大一番になってしまった。
今場所の4大関で最も期待を集めるのは照ノ富士(29)だ。相撲ジャーナリストの大見信昭氏も、その実力を評価している。
「恵まれた体格から繰り出される右四つは馬力十分。ひとたび組めば、そのまま押し込める上半身のパワーは、他の大関と比較しても群を抜いています」
ケガと内臓疾患を抱え、一時は大関から序二段まで番付を落としたが、先場所で幕内優勝を果たし、大関に返り咲いた離れ業はダテではなかった。3年半での奇跡の復活は、とかくサクセスストーリーとして語られがちだが‥‥。スポーツ紙デスクが解説する。
「スリ足もままならないほどの重症でしたから、以前に比べれば回復したと言えます。ただ、今も両ヒザに巻かれたサポーターの分厚さが示すように完治したわけではなく、痛み止めの錠剤と注射でごまかしながらの綱渡りが続いています。なのに、ケガを克服しての復活と繰り返し報じるマスコミに嫌気がさしているようで、最近はリモートをいいことに取材を断ってくることもしばしば」
ヒザに抱えた爆弾がいつ爆発してもおかしくない。それだけに横綱不在の今場所で好成績を収めて、イチ早く綱取りに王手をかけたい。ところが、一筋縄ではいかない事情があるらしく、角界関係者が耳打ちする。
「横綱昇進と引退後の相撲人生を秤にかけると、早々に横綱になるわけにもいかないんですよ。照ノ富士はモンゴル人。引退後も相撲協会に親方として残りたい。そのためには、日本国籍の取得が必要です。先輩モンゴル人力士の白鵬や鶴竜がそうだったように、国籍取得には数年かかる。運よく横綱になれても、仮に大ケガをしてしまったら、国籍取得よりも先に引退が近づいてしまう。慣習で1日でも協会を離れたら、復職はない。帰化するまでは番付を下げてでも細く長く現役を続ける『延命措置』を講じる必要がある」
ここに来て、思わぬジレンマに陥っている照ノ富士。加えて、コロナ禍にも苦しめられているという。
「一晩でシャンパンを20本空けるほど大好きな酒を内臓疾患でやめてからは、カラオケが唯一のストレス発散でした。十八番はスキマスイッチの『奏』で、なかなかの美声の持ち主なんです。ところが、今はコロナでスナックやカラオケボックスに行くわけにもいかない。かなりストレスを感じているようです」(角界関係者)
ヒザの爆弾よりも、溜め込んだストレスが暴走しないことを祈るばかりだ。