全国に数多くある“日本一危険な○○”と呼ばれる場所。大分県北東部の国東半島にも「日本一危険な橋」が存在する。
その橋とは、半島中央部の夷(えびす)地区にある「無明橋」。長さ約3メートル、幅は約1.2メートルの石製のアーチ橋だ。
わずか数秒で渡り切れる短い橋がなぜ日本一危険と謳われているのか? それはこの橋のとんでもない立地を知れば一目瞭然。実は、断崖絶壁の上に架かっており、橋には手すりもない。つまり、一歩足を踏み外せば命を失う可能性すらある場所なのだ。
無明橋があるのは、標高317メートルの中山仙境という岩山。その峰と峰をこの橋で結んでおり、高所恐怖症でなくても足がすくんでしまうほどだ。仮に高いところが大丈夫だったとしても渡っている最中に強風に煽られてしまえばひとたまりもない。
でも、どうして険しい山の上にこんな橋が設けられているのか? もともとこの一帯は古くから修験者たちが修行を行っていた土地で、無明橋まで行くのも大変。麓からは30分ほどだが、途中には鎖を掴んで岩場をよじ登らなければならないポイントが何ヶ所もあり、所用時間こそ短いが、道のりは過酷そのもの。滑落事故もたびたび起きており、なかには亡くなった者もいる。そのため、現在は登山道の入口に《関係者以外の登山は、ご遠慮ください》との看板が設置。原則、立入禁止となっている。
ちなみに山道の途中には修験道の山らしく祠や石仏などが点在。無明橋を渡った先にも小さなお堂が祀られている。この地方では古くから、鬼は神の化身であるとの言い伝えがあり、麓の天念寺では鬼を追い払うのではなく迎え入れる「修正鬼会(しゅじょうおにえ)」という伝統行事が千年以上前から行われている。さらに同じ夷地区には人気アニメ「鬼滅の刃」に登場したような巨大な割岩もあり、作品の世界観をリアルに残す“隠れた聖地”のひとつとして訪れるファンもいるという。
山に入らなくても無明橋は麓から眺めることもできる。有名観光地ではないが周囲には橋以外にも見所が意外と多く、隠れ里のような雰囲気も◎。興味のある方は、コロナが沈静化した時機を見てぜひ足を運んでみては?
(高島昌俊)