月額わずか数十円とはいえ、今年10月から受信料を値下げしたNHK。だがその裏では、暴利をむさぼる「とんでもない計画」が進行していた。アキレるばかりの厚顔ぶりを暴く。
テレビ設置の有無の届け出を義務化したい。そんな狙いが透けて見える。
「公共放送の在り方に関する検討分科会(第10回)ご説明資料」と題された要望書が今年10月16日に、監督官庁である総務省に提出された。NHKは未契約世帯への訪問活動などで年間約300億円の経費がかかっていることを挙げ、届け出の義務化が実現すれば経費節減と同時に、公平な負担が実現できると主張した。そこには「訪問によらない効率的な営業活動の実現」との見出しが掲げられたページが設けられ、具体的な手続きにまで言及していた。次のような仕組みだ。
【1】受信設備(設置・未設置ともに)の届け出を義務化
【2】届け出がない場合、宛名なしで届け出を催促する通知
【3】それでも届け出がない場合、未契約者氏名を照会
【4】照会情報をもとに、宛名を明記のうえ、届け出を催促する通知
【5】なおも届け出がない時には、受信設備を設置していると推定のうえ、裁判に
さらに未契約者に対しては別項を設けて、執拗な催促の仕組みをも明示していたのである。これを見た政府関係者は首をかしげる。
「未契約者を特定し、氏名を照会するにも訪問活動が不可欠ではないのか。そうしなければ、どこの誰が届け出を出していないかわかるはずもなく、照会すらできない。とすると、訪問活動による経費削減うんぬんの理由づけは額面どおりには受け取れない。この要望は理由づけからおかしい」
そのうえで、NHKの姿勢を厳しく指弾した。
「テレビを設置しているかどうかの届け出を義務化するなど、とんでもない話。NHKは『17年12月に最高裁が、テレビを設置した者は受信料契約をしなければならないと認めた』としきりに喧伝しているが、契約はあくまでも設置者の理解を得て行うもの。判決文には『原告(NHK)が、基本的には、受信料設備設置者の理解を得て、その負担により支えられて存立することが期待される事業体である』との記述もある。にもかかわらず、理解してもらうことを省いて強制しようというわけだ」
NHKにしてみれば「見ていない」「番組がおかしい」「政府寄りだ」「無駄遣いが多い」「給料が高い」などといった理由を突きつけられ、理解が得られない状況をいとも簡単にクリアでき、料金徴収漏れがほぼなくなる。これほどありがたい制度はないのだ。政府関係者がさらに続ける。
「これは断じて許されない。NHKは民放に比べて財源で潤っており、公的な特殊法人であるにもかかわらず関連団体や子会社に利益をため込み、幹部の天下りなども横行している体質。そのうえさらに、とは悪辣というか厚顔というか……。こんなことでは設置者の理解など、とうてい得られまい」
事実、NHKは潤沢な財源を有している。それに大きく貢献しているのが、受信料徴収率アップだ。ここ10年以上にわたって毎年のように徴収率は上昇し、19年度は83%に達している。
資産は膨れ上がる一方なのだ。にもかかわらず、テレビ設置の届け出を義務化することで、さらに徴収率を上げようとしている。しかもこの厚顔は未来永劫、続きそうだという。
「一度、義務化の体制ができれば、将来のネット課金にも適用できる。遠謀深慮というよりは、こざかしい企みだ」(前出・政府関係者)
武田良太総務相は11月6日の記者会見で、NHKの要望について「未設置者への届け出義務は、まったく話にならない問題だ」と切って捨て、取り合わない姿勢を示した。だがNHKはこの発言を受け、未設置者への届け出義務化の要望こそ取り下げたものの、基本姿勢を変えようとはしなかった。設置者への届け出は義務づけ、出さないなら裁判に訴える、としたのである。アキレた改革方針を掲げる前田晃伸会長の下、暴利をむさぼり続けていくつもりのようだ。
NHKの厚かましさはこれだけにとどまらない。経済部記者が明かす。
「実はとんでもない要望が他にもありました。持株会社を設置したい、というものです。公的な特殊法人が、民間企業のような仕組みを持ち出して、さらに利益体質を強化したいということです。今でさえ黒字、黒字で資産が積み上がっている。こんなことなら、もう民営化すべきでしょう」
要望書の当該部分は、次のように記されていた。
《●課題
現在は、受信料による出資先の株主としてのコントロールの色彩が強いが、重複排除・再編等は、グリップをきかせて業務の中身に踏み込む必要がある
●対策
これを、非営利の特殊法人であるNHKの側のみで行うのは困難であるため、子会社の側に一元管理できる「中間持株会社」を置きたい
●効果
業務の重複排除、迅速な再配置、子会社役員数の削減や子会社人事権の集約など現行でも合理化等は可能だが、持株会社設置で改革をスピードアップしたい》
これを見るとNHK自身、特殊法人であることを十二分に承知していながら、しかも現状でも合理化が可能であることをわかっていながら、持株会社を設けたいとしているのである。先の政府関係者が憤る。
「これもバカバカしい。受信料では公的機関であることを前面に押し出して強制力を高めようとする一方、徴収した金の使い方は民間企業のようにやりたい、では通るはずもない。どちらかに絞るのが正常というものだ」
「いいとこ取り」は容認できないというのだ。
こうした中、総務省の有識者会議は驚くべき反応を示した。11月20日、NHKが主張したテレビ設置者への届け出義務化を容認しない代わりに、設置したにもかかわらず料金を払わない者に対して割増金を科すよう法改正する、としたのだ。徴収率アップに寄与する提案であり、持株会社についても否定はしなかった。まるでNHKの応援団ではないか。
「いったい誰がどんな目的でこんな強引な法改正を行うよう導いたのか……。少なくとも武田総務相の意向を反映したものではない」
別の政府関係者は困惑した表情で、そうつぶやく。
このままでは受信料収入をさらに拡大したNHKが肥大化し続けていくのは間違いない。国会でしっかりと論戦すべきである。
(ジャーナリスト・時任兼作)