社会現象となった「鬼滅の刃」は別として、コロナ禍で今ひとつ活気がない日本映画界。ところが、そんな中、連日、若い女性たちで満席になっている映画が「彼女は夢で踊る」(時川英之監督)だ。
「東京では、10月23日から新宿・武蔵野館ほかで公開がスタートしましたが、若い女性たちの間で評判が口コミで広がり、連日満員の状態で、11月13日からは池袋での上映も始まり、さらに人気を呼んでいます」(映画雑誌記者)
物語は、中国地方で唯一残った、広島県に実在する昭和50年開館の老舗艶劇場「広島第一劇場」を舞台に、現在と過去とが交錯しながら描かれる儚く切ないラブストーリー。
「物語の軸は、何度も閉館の危機に立たされながら、なんとか劇場経営を継続させてきたオーナーの木下(加藤雅也)が、ついに力尽きて閉館を決意。最終興行には、かつてステージに立った踊り子たちが集まり、その中に自分をこの世界に導いた踊り子と瓜二つの女性(岡村いずみ)がいて……という話ですが、哀感漂う加藤の演技もさることながら、『ジムノペディに乱れる』(2016年公開)でブルーリボン賞新人賞を受賞した岡村の演技も、さすが実力派といったところ。題材は地味で、昭和レトロ感満載ですが、この映画を観終わった女性は『100人いたら100人が涙する』とも言われていますからね。わざとらしくなく、自然に涙を誘うという演出も、この映画をヒットに導いた大きな要因と考えていいでしょう」(前出・映画雑誌記者)
実際、SNS上には、《鼻水ダラダラで息が出来ないくらい号泣》《切なくてエンドロールで涙が溢れた》《理由は分からないがとにかくずっとだだ泣き、泣きまくり》《具体的に何がとか上手く言語化できないんだけど勝手に涙が出てきたんだよ》など、涙・涙のオンパレード。そんななかでも、《踊り子たちに寂しさと愛しさがこみあげて泣いた》《ヨーコさんの踊りに涙が止まらなくなった》と、ステージに立つ踊り子たちの姿、そして生き様に感動して……というコメントが多かった。
「実はこの映画には、浅草ロック座を代表する現役の踊り子・矢沢ようこが、ベテランの踊り子・ヨーコとして出演していて、多くの女性が彼女の妖艶な踊りに惹きつけられた様子。踊り子たちは前盆の上でスポットライトを浴びながら、10分程度の時間内で心の奥にある悲しみや切ない気持ちを体で表現しなければいけません。だからこそ、ラストのポージングが決まった瞬間は、その妖艶さに誰もが息をのむ。性的関心を満足させる大衆娯楽から、今では芸術性のあるエンターテイメントとして認知され、劇場には踊り子たちの肉体美見たさに若い女性の一人客やカップル客も訪れる。ま、時代の変化とともに、ニーズも変化してきたということでしょうね」(情報誌記者)
ちなみに、映画のモチーフとなった「広島第一劇場」は、社長の経営努力もあって、現在も営業継続中なのだとか。今や、艶系のステージは、オヤジたちが下心を満たすだけのものではなく、若い女性たちの心を打つエンターテインメントになりつつあるようだ。
(灯倫太郎)