前駐豪大使・山上信吾が日本外交の舞台裏を抉る!~G7の重要性をトランプに刷り込め!~

 G7発足50周年。それなのに、この有様は何たることか!?今般のカナダでの首脳会合の様子を見聞きした多くの識者が抱いた感慨ではないだろうか。

 気になった第一点は、トランプ米国大統領のあからさまなG7軽視だ。中東情勢を理由にして初日のみの参加にとどめ、途中退席して帰国してしまった。

 イランの核施設爆撃指揮があったにせよ、議長国のカナダに失礼なだけでなく、G7の結束を背景にして、イランだけでなく中国、ロシア、北朝鮮といった権威主義体制に対して強力かつ効果的なメッセージを発出すべき最大の機会を十分に活用できなかった。

 むしろ、「ロシアをG8から追い出したのは失敗だった」「中国をG7に入れるのは悪くない考えだ」などというトランプの無責任かつ奔放な発言が世界を駆け巡った。浅慮の極みと言えよう。

 民主主義、人権尊重、法の支配、市場経済といった基本的価値を共有するからこそ、G7には存在意義があり、国際社会に対してインパクトのあるメッセージを出せるのだ。ロシアや中国を入れたG20が自分勝手な発言をするだけの「トークショップ」と化し、機能不全になっていることに思いを致せば、G7の効用は明らかだ。この点こそ、石破首相をはじめとするG6の首相がトランプに口を酸っぱくして強調すべきことだろう。国連安保理の常任理事国ではない日本にとって、何よりも大事なフォーラムであることは歴代首相が身をもって痛感してきた筈だ。

 第二に目を引いたのは、「西側」のリーダーたちの覆いようもない弱さだ。

 トランプから「51番目の州にしてやる。」と恫喝されてきたカナダのカーニー首相は、蛇に睨まれたカエルのような振る舞いだった。骨のある政治家はイタリアのメローニ首相くらいではないか。単に国内の政治基盤が弱いだけでなく、資質の問題として、そうした印象を周囲に与えてしまっている。人材弱体化が否めない陣容だ。

 レーガンに加えて、中曽根、サッチャー、コール、ミッテランと揃い、やがてはベルリンの壁の崩壊、ソ連邦の解体に繋げた1980年代は遠くなりにけりの印象だ。

 喜ぶのは誰か、明らかだ。だからこそ、ここ数年は危ないと心得るべきなのだ。

 最も深刻なのは、そんな弱いリーダー達の輪の中にさえ入っていけない日本の総理大臣の所作だろう。

 折角首脳会談を行いながらトランプ政権との関税交渉を決着できなかったのは予想されたことかもしれない。だが、何度も海外出張や国際会議への出席を重ねながら、何故学ばないのか?

 会議のセッションが始まる前、各国首脳が和やかに談笑している中でひとり席に座っていて何の効用があるのか?何のためにわざわざカナダまで出向いたのか?

 これでは事前準備に汗をかいた事務方も愕然としたことだろう。この総理大臣は「3時間しか寝ていない」とぼやいたことがあるが、サミットの準備に当たる官僚たちにとっては、徹夜も辞さずに働くことなど日常茶飯事なのだ。

 それなのに、カナダ首相との首脳会談でも、G7首脳会合でも、相手への気配りや労りを言葉や行動で示すことなく、そそくさと座ってしまう総理大臣。これぞ日本外交の劣化極まれり、ではないだろうか。

●プロフィール
やまがみ・しんご 前駐オーストラリア特命全権大使。1961年東京都生まれ。東京大学法学部卒業後、84年外務省入省。コロンビア大学大学院留学を経て、2000年ジュネーブ国際機関日本政府代表部参事官、07年茨城県警本部警務部長を経て、09年在英国日本国大使館政務担当公使、日本国際問題研究所所長代行、17年国際情報統括官、経済局長などを歴任。20年駐豪大使に就任。23年末に退官。同志社大学特別客員教授等を務めつつ、外交評論家として活動中。著書に「南半球便り」「中国『戦狼外交』と闘う」「日本外交の劣化:再生への道」(いずれも文藝春秋社)、「歴史戦と外交戦」(ワニブックス)、「超辛口!『日中外交』」(Hanada新書)、「国家衰退を招いた日本外交の闇」(徳間書店)、「媚中 その驚愕の『真実』」(ワック)等がある。

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