2月末の米トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との激しい口論を経て、事態が動き出したロシアVSウクライナ情勢。アメリカによるウクライナへの軍事支援一時停止を受け、3月5日夜のテレビ演説で、ヨーロッパに差し迫るロシアの脅威に対抗するためフランスの核による抑止力、つまり「核の傘」を同盟国などにも広げることについて検討を始めるとぶち上げたのが、フランスのマクロン大統領だった。
ストックホルム国際平和研究所のデータによれば、2024年1月の時点でフランスが保有する核弾頭の数は290発。この数はロシア、アメリカ、中国に次いで4番目だというが、
「現在欧州で核を保有するのは、フランスとイギリスの両国のみ。フランスは2008年に核弾頭の数を東西冷戦時代の半分にあたる300発以下に抑えると表明しているため、現状、290発という半端な保有数になっていると言われます。世界に現存する核弾頭の総数は推計で1万2121発で、そのおおよそ9割をロシアとアメリカ2か国が占めている。つまり数の上ではフランスの保有数では到底及ばないものの、イギリスも225発を保有しているとされているので両国合わせれば545発。これだけの数があれば核兵器を搭載した航空機をドイツやポーランドなど他国に配置すること可能。さらに核爆弾を搭載した爆撃機がヨーロッパの国境を巡回することも可能になるでしょう」(軍事アナリスト)
ただ、第2次世界大戦後に核兵器の開発を進め、核兵器運用に関する最終的な決定権を大統領が持つフランスとは異なり、イギリスはアメリカの技術的支援に依存している。
「現在、ドイツをはじめ、イタリア、オランダなどには、すでにアメリカの核爆弾が配備されていますが、核爆弾の使用にはアメリカの同意が必要になります。その点、フランスは大統領権限でいつでも航空機や潜水艦から発射することが出来る。マクロン氏は『アメリカが私たちの味方であり続けると信じたい。しかし、もしそうでなくなった場合にも備える必要がある』と述べ、もはや当てにならないアメリカではなく、フランスが持つ核の傘のもとでヨーロッパ各国は防衛力を強化すべきである、と呼び掛けたというわけなんです」(同)
このマクロン発言に対し、当然のことながらロシアは猛反発。6日、ロシア外務省は声明の中で、「アメリカの『核の傘』に代わる独自の『核の傘』を提供することで、ヨーロッパ全体の『核の後援者』になろうというパリの野望が表面化したものだ」とマクロン氏を揶揄し、「パリでは、いまだにわが国の重要な利益を考慮するつもりはなく、西側諸国が望む決定を強要することを目指していると、われわれは、改めて確信している」として、マクロン氏による対抗姿勢を批判。ラブロフ外相も、「3つか4つの核爆弾で全てを守ろうと考えるのは滑稽」と語ったと報じられている。
「フランスは過去にも核による保護の拡大を提案したことがあるのですが、その時の他国の反応はとても鈍かった。しかし、この先トランプ氏の出方がどうなるかわからない中、フランスの提案が選択肢の一つとなったことは間違いないでしょうね」(同)
現在フランスの核ドクトリンには、大統領が「死活的な利益」が危機に直面していると判断した場合に限るとの定義があり、ヨーロッパの同盟国も含まれるとなると、規定の再構築が必要になるだろうが、トランプ大統領がヨーロッパに放った「トランプ・ショック」の余波はしばらく続きそうだ。
(灯倫太郎)