──経済面はどうなるでしょう。トランプは諸外国に高い関税をかけると公言していますが。
はい。トランプはいつもディール(取引)と言ってますよね。最初にものすごい高い関税をかけるとフッかけてから交渉する。これは自分が不動産業者としてやっていたのと同じやり方です。例えば、土地を売る時に、ものすごい高い金額をフッかけて、相手がひるんだところで交渉し、妥協点を探るという手法です。だから中国に「60%の関税をかける」って言っていたのに、この前「10%」と変わったでしょ。つまり、まずは2~3倍でフッかけておいて、相手を驚かせてから、落としどころを探る。外交でもこういうフッかけ交渉をやっていくことでしょうね。
──政治家というよりビジネスマンですね。
非常に深刻な問題が、メキシコからの輸入品に25%の関税をかけると決めたことです。これは元々クリントン政権時代に、北米自由貿易協定(NAFTA)というのを結びました。カナダとアメリカとメキシコの北米3カ国の貿易には一切関税をかけないというもので、それによりアメリカの自動車産業などが人件費の安いメキシコに工場を作り、結果的にアメリカの産業の空洞化が起こりました。自動車産業の労働者の仕事がなくなったことに怒った1期目のトランプはNAFTAをやめ、新たにアメリカに有利な協定を作りましたが、それでも関税をかけないという形は続いていました。
──日本の自動車産業もメキシコに工場がありますね。
はい。トヨタ、日産、ホンダ、エアコンのダイキンなども、安いメキシコの労働力を使って製品を作り、アメリカに輸出しているんです。そこに25%もの関税ですから、日本の自動車産業などは大金をかけメキシコに工場を作ったのに、アメリカに安く輸出できなくなり大打撃です。
──海外に工場を置く日本の企業が、日本国内に回帰することにはならないですか?
そうはなりません。トランプは日本から直接アメリカに輸出しようとしている製品に関しても、10~20%の関税をかけると言ってます。日本の雇用が失われ、国内産業の空洞化が進むことになってしまいます。日本からアメリカへの輸出産業にとっては深刻な問題になります。
トランプはこれまで通りアメリカで製品を売りたいのならアメリカに工場を作れというわけです。12月にソフトバンクの孫正義氏がトランプと面会し、15兆円以上をアメリカに投資するって言ったでしょ。これこそがトランプの狙いなんです。
池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。
(つづく)