先月の衆議院選挙で自民党が大敗し、自公連立政権が過半数割れとなったことで政局が流動化。敗れた自民、公明の与党側と、躍進した立憲、国民の野党の駆け引きに注目が集まっている。
一方、野党第2党である日本維新の会の影は薄い。前回21年には41議席を獲得し「次の選挙では野党第1党になるぞ!」と息巻いていたのに、今回は38議席に止まった。東京をはじめ東日本の小選挙区では全敗し、比例区全体でも36.6%減と大幅に票を減らしている。与野党勢力伯仲の状況にも、存在感は薄い。
ところが、19選挙区全部を制覇した大阪でだけは、最強だ。日本維新の会は惨敗でも、大阪維新の会は完勝なのである。なぜ、維新は大阪でこんなにも強いのか。当然湧く疑問に答えてくれるのが本書だ。「日本」でなく「大阪」維新の会を検証することは、維新の考え方が全国に通用するのかどうかを見極める材料にもなるから、どこに暮らす者にとっても興味深い。
しかも、気鋭の若手経済学者である著者は、政治イデオロギー抜きに、純粋に経済学や統計学を駆使して謎を解いていく。自身は、10年前に大阪の大学に赴任するまで、この地域に縁がなかったというのも、信頼できる客観的分析につながっているようだ。
まず、発足当時以来、根強かった「維新人気は、大阪に特有の現象であり、地域固有の価値観に裏付けられている」との定説を疑うところから始まるのだから、関心をそそられるではないか。
主要なテーマは3点だ。
(1)大阪の人は他地域とは異なる政治的好みを有している。
(2)維新は新自由主義で小さな政府を目指している。
(3)維新は大阪を豊かにした
というこれまでの一般的な見方が正しいかどうか。
先入観にとらわれず、大阪とそれ以外の全国各地とで統計として必要な数のアンケートを行い、数字を読み解いていく著者の作業を通すと、意外な回答が現れてくる。まるで、推理小説の謎解きのように、データに裏付けられた結果が示されるのだ。これを見ると、現時点までの維新の政策が挙げた成果と、それと裏腹の問題点がわかってくる。
本書で明らかにされた結論は、この政党の功罪をくっきりと浮かび上がらせる。それは、今後の日本政治の行方や、来年に迫った大阪万博の評価を占う上で、維新支持、不支持を問わずあらゆる有権者にとって有益な情報だと思う。同時に、好き嫌いとかマスコミ情報とかに惑わされず、冷静に各政党の本質を見極めることの大切さを意識させられる。
また並行して、経済、財政や統計に関して、素人にもわかりやすい解説を随所に加えてくれているので、それらを学ぶ良き機会にもなる本だと言えよう。
《「検証 大阪維新の会『財政ポピュリズム』の正体」吉弘憲介・著/968円(ちくま新書)》
寺脇研(てらわき・けん)52年福岡県生まれ。映画評論家、京都芸術大学客員教授。東大法学部卒。75年文部省入省。職業教育課長、広島県教育長、大臣官房審議官などを経て06年退官。「ロマンポルノの時代」「昭和アイドル映画の時代」、共著で「これからの日本、これからの教育」「この国の『公共』はどこへゆく」「教育鼎談 子どもたちの未来のために」など著書多数。