いよいよロシアへ派兵された北朝鮮軍が動き始めたようだ。ロシア大統領府の報道官が、ロシア西部のクルスク州に約1万人の北朝鮮兵士が到着したと述べた一方、一部報道やSNSでは、すでにウクライナ軍からの攻撃により北朝鮮兵士に多数の死亡者が出ているという証言もある。外報部デスクの話。
「10月28日放送のリトアニアの公共放送LRTが、同国の親ウクライナ非政府組織『ブルー・イエロー』代表の談話として、すでに北朝鮮軍とウクライナ軍が戦場で衝突し、『北朝鮮軍の部隊員のうち1人を除いて全員が戦死した』と伝えましたが、その後もSNSへの動画投稿や同様の報道が後を絶たないようです」
直近では「Victoria」を名乗るウクライナ支持者が、ウクライナ軍に捕えられたとされるロシア兵の動画をXに投稿。このロシア兵によれば、自身の部隊と北朝鮮兵士10人が塹壕を掘るために森へと連れて行かれたあと、ウクライナ軍の攻撃があった。すると「そのとき我々は、どっちに向けて発砲すればいいのか説明しようとした。ところが、パニックになった複数の北朝鮮兵が我々に向けて発砲し始めた。そしてロシア部隊のうち2人が撃たれた」と証言。「味方に撃たれて死ぬくらいなら降伏したほうがマシ」という思いから、ウクライナ軍に投降したというのである。
「この証言を裏付けるように、ウクライナ国家安全保障委員会所属の虚偽情報対策センター所長もクルスク州で北朝鮮兵士が初めて砲火にさらされたことを認めています。当初、実戦経験のない北朝鮮兵は後方支援に回る可能性が高いとされていた。しかし前線に投入されるとなれば、こういった誤射が増えることは必至と言えます」(同)
ロシア・北朝鮮両軍による戦闘開始で、ウクライナ情勢は東アジアを巻き込んだ新局面に入ったとも言えるが、西側の情報機関によれば、今回の北朝鮮兵派兵はロシアの戦力補強にはなるだろうが、戦局が大きく動くほどのゲームチェンジャーになる可能性は極めて低い、というのが大方の見方だ。
「簡単に言えば、両軍の疎通が取れず、戦力になるかどうかが疑問だということ。そのため、“肉の壁”として突撃部隊として使われる可能性が大きいでしょうね」(同)
むろん、今回のロシアへの北朝鮮兵派兵は、昨年両国間で交わされたロ朝包括的戦略パートナーシップ条約に基づいたものだ。つまり朝鮮半島有事の場合には、今度はロシアが北朝鮮に派兵することになるわけだが、専門家の中には否定的な意見も多いという。
「両国における包括的戦略パートナーシップ条約には、『自動的に参戦を発動する』という文言がない。ということは、判断はその時の指導者に委ねられるということ。武器弾薬の提供程度はあるでしょうが、仮にロシア側がプーチン大統領から新政権に移行した場合、兵士参戦がそのまま受け継がれるかどうかは全くわからないということです」(同)
ウクライナ侵攻が数年、数十年と長引いた場合、その時のロシア軍に余裕があるかどうかも問題となる。余裕がなかった場合、中国との関係に溝を作ってまでロシアにすり寄った北朝鮮は最悪、完全に孤立無縁になるということ。つまり金正恩政権にとって今回のロシア派兵は、のるかそるかの大博打と言える。
昨日の敵は今日の友とはいうものの、果たしてこの例えが独裁者に当てはまるのかは、疑問である。
(灯倫太郎)