あの昭和ドラマヒロインを総直撃【鳩子の海】斉藤こず恵 “超多忙子役”が明かした西城秀樹との縁

 1974年度に放送され、最高視聴率53.3%を記録したNHKの朝ドラ「鳩子の海」。ヒロイン・鳩子の少女時代を演じ、子役スターのトップに躍り出た斉藤こず恵(56)は、休業、海外留学を経て、今も演技の仕事を続けている。

「『鳩子の海』のオーディションを受けたのが5歳の時。私が一番年下で、しかもコメディのノリで臨んでしまい、『緊張してる?』と聞いてきた演出家の方を『金鳥、蚊取り線香!』とか言って蹴っ飛ばしちゃったんです。マネージャーさんも私もまさか受かるとは思わなくて‥‥。後で聞いた話では、海で溺れるシーンがあって、『あの子なら冷たい海に入っても大丈夫そうかな』っていう理由で選ばれたみたい(笑)」

 ブレイクのきっかけをつかんだ「鳩子の海」では、広島に投下された原爆のショックで記憶を失った少女を演じた。

「原爆の話というのは聞いていましたけど、まだ5歳だから字が読めないので、台本を見てもわからない。セリフは大きなオープンリールのテープに録音してもらって、それを繰り返し聞いて覚えました。米軍の戦闘機に銃撃されているところを、夏八木勲さん(故人)に救われるシーンがあるんですけど、今になって見返すと、夏八木さんに抱きかかえられた瞬間にニコッと笑ってるんですよ。3歳から子役の仕事をして、現場ではお腹が空いても泣くことを許されず、よく『あなたもプロなんだから』と𠮟咤されてきましたけど、この一瞬だけは『高い高い』されている感覚になってしまったのかもしれませんね」

 朝ドラ効果もあって、小学校に上がると、生活は多忙を極めることに。

「今とは違って、ドラマの撮影を理由に学校は休めません。給食の時間までは教室にいなければいけない決まりで、お迎えのハイヤーの中でお昼ご飯を食べながら現場に行く毎日。車の中には台本が6、7冊とか置いてあって、わからない言葉があれば辞書で調べたり‥‥。だけど仕事というよりは、もうひとつ別の学校に通っている感覚でした」

 そんな斉藤には大きなご褒美が。74年5月発売の「女性セブン」のインタビューで「お嫁さんになりたい」と語っていた西城秀樹(故人)とラジオ番組「ヒデキとこず恵の楽しいデート」(文化放送)で共演。番組は4年半も続いた。

「一緒にお仕事をしているうちに兄のような存在になって、番組でも『お兄ちゃん』って呼んでいました。秀樹さんは私をスペシャルゲストとしてコンサートのステージに上げてくれたり、誕生日には毎年プレゼントを用意してくれたんです。オモチャとかレコードとか本とか、色々いただきました。中学校に入学する際には、『これから大人になるんだから』とカルティエの腕時計をくれたり、結婚式にも招待してくれて、本当の兄妹のようにお付き合いさせていただきました」

 79年放送のNHK大河ドラマ「草燃える」では、源頼朝の娘・大姫役に抜擢。母親の北条政子を演じたのは、主演の岩下志麻(83)だった。

「父親役の石坂浩二さん(83)は現場で『こず、こず』と愛称で呼んでくださり、カメラが回る直前までおしゃべりしているような方でした。岩下さんもふだんはとても優しいのですが、演技に入る時のオンとオフの切り替えがすごかったですね」

 ドラマでは母親役の岩下が、斉藤を平手で叩くシーンがあった。撮影の直前、斉藤はこう言われたという。

「大姫、私は目が悪くて、手がどこに飛んでいくかわからないから、うまく受けてね」

 当時まだ小学5年生。衝撃を受けるのも無理はなかった。

「石坂さんが撮影中にうっかり『こず』って名前を出してしまった時も、岩下さんが最初に気づいて、『お父様はずっとおしゃべりをしているから‥‥』と優しくとがめていました。他の役者さんがミスをするとカッカする女優さんはいましたけど、岩下さんはまったく怒らない。『やはりトップの女優さんは違うな』なんて思ったものです」

 その後も学業と芸能活動を両立させ、高校卒業後は吉永小百合(79)の「いろんな世界を見てきたら?」という助言もあって、アメリカに留学。ゴスペルに出会い、ジャズやブルースのシンガーとして活躍。帰国した今は声優としても活動している。

「『五十の手習い』ではないですけど、声のお仕事は新人として海外ドラマの吹き替えからアニメまで幅広くやらせていただいています。感慨深かったのは、『鳩子の海』で私の養父役を演じた樋浦勉さん(81)と現場でお会いできたこと。『これは監督さんのプレゼントだ』って、2人して目をうるうるさせて再会を喜んで‥‥。有名な作品で言えば、一昨年放送のテレビアニメ『チェンソーマン』で演じた悪役の『永遠の悪魔』。エンドロールでたまたま私の名前を見つけたのか、知り合いのプロデューサーから電話がかかってきて『こず恵ちゃん、悪魔やってんの?』って(笑)。配信ドラマやアニメを見て、『あ、この声は‥‥』と気になったら、エンドロールを最後まで見て〝斉藤こず恵〟の名前を見つけてくれるとうれしいですね」

 朝ドラ出演から半世紀、元子役スターは演じる仕事を心底楽しんでいるようだ。

斉藤こず恵(さいとう・こずえ)67年生まれ。東京都出身。3歳から劇団に所属し、連続テレビ小説「鳩子の海」(NHK)でブレイク。76年にはシングル「山口さんちのツトム君」が大ヒット。声優としてはアニメだけでなく、19年公開の映画「パラサイト 半地下の家族」などの日本語版の吹き替えを担当。

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