91歳の鉄人アスリート「生涯ゴン攻め」を大いに語る(5)練習で生死の境をさまよったことも

 朝食からもわかるように、生活のすべてはトレーニングを中心に回っている。毎週火曜は所属するチームでコーチのもと、それ以外は自主トレに励む。その内容も週2〜3回はバイクで1度に100〜150キロを走破し、そのあとに調子がよければ、シューズを履き替えてランに挑むこともあるそうだ。

「ロードバイクに乗らない日は近所の土手で12キロぐらい走ります。ただ、最近は暑いのでスポーツジムのランニングマシンをフル活用中です。その流れでジムのプールには通えるだけ通う。ジムの風呂に入りがてら5分だけ泳ぐなんてこともありますが、とにかく何もしない日を作らないことが大事。90を過ぎると、すぐに筋肉と骨が衰えてしまうからね」

 無論、運動の前後には入念なストレッチを行う。ところが、鉄人の場合は筋トレがセットでついてくる。

「腕立て伏せと上体起こしを10〜20回を2セット、スクワットも20回を2セットやります、もちろん、連続ではなくて、体をケアしつつやります。毎日、欠かさずに続けているから、やらないと気持ち悪いのよ」

 こうしたトレーニングの合間に昼食は出先で済ませることが多いという。外食ならウナギなど栄養価の高い食物を選び、弁当を購入するにしても成分表示をしっかり確認する。当然ながら夕食も‥‥。

「8時間の睡眠を確保するため、アレコレ考える余裕がないので、ほぼ同じメニューを毎日食べています。豆腐とワカメ、小エビ、貝類などの具だくさん味噌汁とごはん茶碗1杯分の玄米がメイン。玄米はレジスタントスターチという腸内環境を整える栄養が増すので、あえて冷ごはんにして生卵をかけて食べています。おかずは、メザシ3尾とシラスを散らしたキムチ納豆。メザシは骨まで食べられますし、シラスもビタミンDが豊富でカルシウムの吸収を高めてくれます」

 一見、過剰にも思えるトレーニングと食事の量だが、鉄人レースに出場する91歳にとっては、これが適度な運動と食事となるのだろう。そんな〝スーパーおじいちゃん〟であっても、生死の境をさまよった経験がある。

「忘れもしない昨年10月のことです。ロードバイクの練習中に転んで、路上で意識を失ってしまった」

 後に聞かされた話で不幸中の幸いどころか、多くの幸運が重なって生還できたことがわかったという。

「転んだ場所が消防署から程近い場所で、救急車の到着も早かったそうです。かつ、搬送された病院も距離が近くて、早期に処置ができたというんです」

 第三頸椎にヒビが入ったものの、神経に損傷はなかった。だが、椎間板の損傷で出血した血液が喉から鼻に上がってきて、窒息寸前の状態に。

「ちょうど耳鼻科の先生が出勤したところで、処置してくれて大事に至りませんでした。先生からは『あと10秒遅れたらアウトだった』と言われました」

稲田弘(いなだ・ひろむ)1932年11月19日生まれ。NHKを定年退職後、水泳を始めたことをきっかけに70歳でトライアスロンに挑戦。76歳で最も距離の長いアイアンマンレースに初出場。79歳で挑んだ世界選手権で15時間38分のタイムで年代別王者に。同大会で85歳の「最高齢完走」ギネス世界記録を樹立した。現在も記録更新を目指す

(つづく)

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