「今回の組閣では、小泉(進次郎)の環境相での入閣が表の目玉、一方、我々のような報道に関わる業界筋の人間にとっては、国家安全保障局長の人事の方がよほどサプライズでした」(報道部記者)
国家安全保障局とは、内閣官房内に置かれている事務局で、外務省、防衛省、警察庁、公安調査庁、経済産業省、国土交通省、内閣情報調査室といった国家の安全保障に関わる各省庁に対して情報要求を行う権限があり、各省庁は報告する義務を負う。2014年から設置されたもので、アメリカの国防総省の諜報機関であるアメリカ国家安全保障局(NSA)を真似たもので、日本版NSAとも呼ばれる。つまりは、日本の諜報組織の総元締めとでもいったところか。
そしてこの組織のトップに北村滋という人物が抜擢された。それが業界筋の人間にとっては驚きだと言っているのだ。
「初代のトップは外務省で事務次官まで勤め上げた谷内正太郎氏でした。そして2代目がこの北村氏。北村さんは内閣情報調査室の室長だった人で、外務事務次官とは格が違う。つまりはそれだけ北村さんは現政権から気に入られているということでしょう」(同前)
内閣情報調査室とは、やはり内閣官房に置かれた情報機関だ。前身は1952年に設置された内閣総理大臣官房調査室で、似たような諜報機関として法務省の外局の公安調査庁などもあり、独立した機関としての知名度はいまいちで、どちらかというと日陰の組織だった。
内調にかかわる人物が語る。
「今年の6月に封切りされた映画『新聞記者』で松坂桃李さんが調査員役を演じたことで急激に注目を集めるようになりましたね。松坂さんの役柄が外務省からの出向職員だったように、内調は様々な省庁からの出向者が多い組織です。もちろん生え抜きの職員も多数いますが、特に警察庁からの出向者が多いので、警察庁の出先機関のような位置づけと言っていいでしょう」
そして今回の人事について、こう言う。
「あれには職員も驚きました。新聞に首相動静って載りますよね。あれで一番安倍さんが会っているのが北村さんなんですよ。究極のお友達人事なんて言われていますが、確かにあまりに露骨というか。北村さんの評判についてはご存知でしょうが、”官邸のアイヒマン“などと書かれているように、それだけ裏方として優秀というか、安倍(晋三)さんに気に入られているっていうことですよね」
北村氏のエピソードとして有名なのは、元TBS記者で首相担当を務めたことで安倍首相と親しくなったことからTBSを退社後に『総理』『暗闘』といった安倍関連本を執筆したジャーナリストの山口敬之氏がフリージャーナリストの女性を準強姦したとされる事件で、いったんは出ていた逮捕状が取り消された件だ。この時山口氏が北村氏に泣きついて相談メールを送っていた事実が、週刊新潮により暴かれている(山口氏は不起訴処分。民事訴訟が進行中)。
「選挙の時に自民党内で配布される野党を罵倒するためのマニュアルを内調が作成していたとか、安倍さんが地方で演説する時のご当地ネタを内調が集めていたとか、安倍さんにとってはにっくき政敵の石破茂さんの動静を監視させていたとか、様々な政権擦り寄りの工作活動を行っていた疑惑が報道されました。そんなこんなで北村さんの名前が轟くと同時に内調の知名度も高まった。組閣後すぐに『週刊文春』が、内調の情報官が誰かに尾行されていることが分かって110番したら相手はお仲間の警察官だったという記事を掲載したんですが、そんなお笑い記事にもかかわらず電車の中吊りは右トップの扱いでしたからね。それでもまだ各マスコミはおとなしく見ている方だと思いますよ」(同前)
今回の組閣に当たっては、内閣人事局長を兼任する杉田和博・内閣官房副長官の続投も決まった。杉田氏も内調トップを歴任した警察官僚だ。安倍首相の警察好きに対し内調関係者は「まるで警察国家のようですよ」と本音を漏らした。
(猫間滋)