令和の黒船「TSMC」始動・熊本「半導体バブル」裏に隠された巨大な落とし穴

 世界最大の半導体受託製造企業、台湾積体電路製造(TSMC)が、熊本県菊陽町に建設していた第一工場が2月24日に開所。総人口が4万4000人弱(2022年12月末)のこの町は無論のこと、その周囲が大変なことになっているようだ。

 TSMCが菊陽町への進出を発表したのは昨年2月のこと。投資額は1兆円超(日本政府が最大4760億円補助)で、第一工場建設後、来年にはその1.5倍の敷地面積となる第2工場も建設予定。従業員1700人でうち500人は台湾から技術者を派遣、残りについては日本国内で雇用する計画が発表されていた。経済ジャーナリストが語る。

「政府は当初予定していた支援金4760億円を、さらに最大で7320億円に拡大。日本での第2工場が完成すれば、第1工場と合わせて3兆円規模の投資額と約3400人の雇用が見込まれるとしています。そんなことから、昨年来、同町と周辺自治体には周辺への進出を希望する企業が相次ぎ、工業地をはじめとする地価が急上昇。完全に半導体バブルが起こっている状態で、今後ますますこの状況に拍車がかかることは必至だと考えられます」

 TSMCが菊陽町に白羽の矢を立てた最大の理由は、半導体生産などに欠かせない良質な地下水があることといわれるが、さらに菊陽町は阿蘇くまもと空港からわずか10分の距離で、九州自動車道の熊本ICからも10分程度あれば到着できる、という交通アクセスの良さもある。

「車なら福岡市へ1時間半程度で、八代港からは台湾に向けコンテナ定期航路が出ていることもあり、台湾の半導体企業が進出するためには最高の条件が揃っている。しかも国土交通省のデータによれば、住宅地が東京の約13分の1で、商業地も同約14分の1程度。そして工業地に至っては、なんと同約20分の1という低コストでの購入が可能だというんですからね。つまりTSMCにとっては、まさに渡りに船だったというわけなんです」(同)

 結果、半導体ナンバー1企業進出の決定後には、菊陽町だけでなく周辺地価も軒並み急上昇。熊本県や自治体には、全国各地から企業立地に関する問い合わせが殺到し、地元・熊本銀行にも国内外にある数百社の半導体関連企業から「土地を確保できないか」といった相談が寄せられているという。

「とはいえ、菊陽町は多くの土地が農業を守る農業振興地域に指定されているため、企業が工場を建てられるほどの大きな土地が空いていなかったんです。しかし、すでに一部では地上げも起こり初めていて、悪質業者もどんどん流入しているという話もありますからね。この先、80年代バブル期に起こった土地ころがしが出てくる可能性も否定できません」(同)

 また、新工場が雇用する従業員約1700人のうち、約700人は新規・中途で採用するとしているが、それ以外はパートなどの非正規雇用となる予定で、そちらの時給が約1.5から2倍に押し上げられたことが町で働く労働者の賃金問題にも派生。降ってわいたような“半導体バブル”に四苦八苦する経営者も少なくないという。

「つまり、もともとこの町に住み、この町の企業に務めてた人々にとっては、家賃も上がり、物価も上がり、何一ついいこともない。デメリットでしかないということ。その辺りを行政が今後どう考慮していくかが、最大の課題になるでしょうね」(同)

 結局、浮かれているのは国や自治体と関連業種だけなのか…。皮肉なことに「半導体バブル」の大きな落とし穴は、いまも広がり続けているようだ。

(灯倫太郎)

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