世界最大の半導体受託製造企業、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県誘致によって、22年から31年までの経済効果が約11兆円以上にも及ぶと、地元銀行である九州フィナンシャルグループが試算している。
事実、地元・大津町では、昨年からの地価上昇率が、一番高いもので33.3%のアップだった。また、TSMCの高給の影響で、地元企業の給与も引き上げられ、10月11日には、熊本県の職員の月給も32年ぶりに大幅に引き上げるよう勧告されるなど、地方創生の大きな切り札として注目を浴びている。
ただ、最新技術を支えるには莫大な資源が必要とされ、そこには環境負荷がかかると言われる。それゆえ、地元の姿を大きく変えてしまうのでは、という新たな問題も持ち上がっているようだ。
「大きな電力消費もさることながら、1つの工場で水道水なら約67万人分の給水、全体では『ほぼ町1つ分の地下水』が必要とされます。工場周辺では休田地が広がるといった、これまでの風景が変わってきていることに危惧を抱く地元民も少なくないのです」(経済ジャーナリスト)
実は、熊本に限らず日本は今、半導体工場の建設ラッシュだ。今年までに半導体企業の「キオクシア」が岩手県で、「ルネサス」は山梨県に工場を建設し、この先も、25年に「マイクロン」が広島県で、27年には「ラピダス」が北海道にそれぞれ拠点を構える。だが、こうした工場建設や稼働によって、熊本と同様の懸念が指摘されているのだ。
とはいえ、一方で、同じ課題を抱えるアメリカでは興味深い動きがあったという。
「11月1日にアメリカ・ペンシルバニア州で、Amazonの生成AI向けデータセンターへ原子力発電所から送電するという計画に、当局が待ったをかけるという動きがありました。この『原発からの送電』については、数年もかかる発電所や送電網の建設を待つことなく、膨大な電力を賄う方法として関係者の間で期待されていたものでした。しかし、この方法は一般家庭や既存の事業者に深刻な影響を与えかねない、と判断されたのです。日本のケースと異なるとはいえ、興味深い一例だと言えます」(前出・ジャーナリスト)
新たなイノベーションと工場誘致で地方が潤うのは結構だが、地元住民不在の創成では本末転倒となってしまいかねないのである。
(猫間滋)