「時給2ドルで地獄の作業」イタリアが規制に動いたChatGPTのダークサイド

 イタリアの政府機関・データ保護局は3月31日に、国内でのChatGPTの使用を一時停止するとした。個人情報が違法に収集された可能性があり、かつ、13歳以上のユーザーを想定しながらも、年齢による利用制限がないことも問題と考えたからだ。当局は開発者のOpenAIに、20日以内に対策を講じるよう求め、対応がなければ最大2000万ユーロ(約29億円)の罰金が科される可能性があるという。

「これに先立つ3月27日には、EUの欧州刑事警察機構(ユーロポール)がChatGPTはフィッシング詐欺に有効なツールで、大したテクノロジーを持たないサイバー犯罪者でも偏ったプロパガンダや偽情報を流すことが容易になり、より安全策を講じた進化版のGPT4でも変わらないとして警告を発していました。あまりに便利なためにブームとなった一方、それ故に生じる様々な現実的弊害も徐々に見え始めたということでしょう」(ネットライター)

 斬新的なテクノロジーに、社会としてどう対応していくかが問われているということだろう。イーロン・マスクらが発した問いかけも、そういった趣旨のものだ。

 アメリカの非営利団体の「未来研究所」は3月28日に、主要なAI研究機関などに送った公開書簡を公表。AIの進化が人間社会にもたらす「社会的リスク」が考慮されるまで、GPT4の研究を一時休止するよう呼び掛けたものだ。公開書簡にはマスクの他に、1000人以上が共同署名している。アップルの共同設立者のスティーブ・ヴォズニアック、著名なコンピュータ科学者のスチュアート・ラッセル、世界中で多くの人に読まれている「サピエンス全史」著者のユヴァル・ノア・ハラリや著名大学、有名テック企業研究者、起業家たちだ。

 本来なら名前があってもおかしくはないが、共同署名していないのがマイクロソフトの共同創業者と知られるビル・ゲイツで、彼は「AIが貧困層の医療に革命を起こす」と楽観的な立場に立っているからだ。ただリスクについてはビル・ゲイツも指摘していて、その辺りは政府や企業の間で解決すべきと語っている。

 昨年11月にChatGPTがリリースされ、1億人のユーザー獲得というブームが起こった1月段階で、ChatGPTが持つダークサイド、闇の部分もアメリカの週刊誌の「TIME」によって報道されていた。

「OpenAIはChatGPTがより安全に利用できるように、膨大な量のデータから有害なコンテンツをフィルタリングする作業を外部の企業に委託したのですが、この企業ではケニア人に時給2ドルという低賃金で作業させていて、当のケニア人は『地獄のような作業だった』と語っているというものでした。記事ではChatGPTに限らず、AIのイノベーションの裏ではこういった搾取的労働で支えられている現実があるとしています」(前出・ネットライター)

 テクノロジーには何らかのバイアス(偏見)がつきものだが、急速に進化するAIと社会のゴタゴタはしばらく続きそうだ。

(猫間滋)

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