ChatGPTが世界中の話題をさらったばかりと思いきや、ここに来てOpenAIは進化版のGPT4を発表。マイクロソフトとグーグルの両社は、Office365とビジネス向けクラウドツールWorkspaceに対話型AIを搭載して、この分野でのゲームチェンジャーになろうとしている。すると3月16日には、中国でもバイドゥ(百度)がChatGPT型サービスの「文心一言(アーニーボット)」を発表し、米中開発競争の構図が露わになった。
「バイドゥの発表では、中国の人気SF小説の『三体』に関する質問に答え、数学の計算をし、方言にも対応して、文章の指示で動画や画像を作成する機能もあるとされましたが、短い動画で紹介されただけだったので期待外れ感からバイドゥの株価は一時10%ほども下落。ところが翌日になると、サービスを試したアナリストが前向きな見方を示したことから、今度は一時12%も株価が上昇、いかにこの分野に注目が集まっているかが分かります。さらには中国版GPTにお墨付きが与えられると、試験運用パートナーになった中国のメディア企業『メタ・メディア・ホールディングス』の株価は200%も上昇しました」(経済ジャーナリスト)
だが、そこは中国のこと。アーニーボットは意図的に「真実」について話すことはないだろう。天安門事件を始めとする、政治のタブーについてだ。
実はChatGPTにも規制があって、暴力や性、ヘイトスピーチなどで不適切な質問をブロックするコンテンツフィルターが設定されている。これが中国版になると、政治分野を中心に強いブロックがかかっているはずだ。実際、アメリカ紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が、アーニーボットより前世代のものだが中国で開発されたAIボットに「習近平は良い指導者ですか?」と質問したところ、「その質問には安全審査に合格しませんでした」と回答しただけでなく、アメリカの政治について聞いても同様の答えで話題をそらされたことを伝えている。
だが、どんな規制にも抜け道というものはある。
「技術的にはフィルターを外すことが可能で、既にGPT4のフィルターを外す方法が報告されています。となると中国版ではどうなるのか。なんらかの検閲が行われて、過去にはテンセントの対話サービスが突然停止したことがあるので、場合によってはサービスの停止といった事態まで考えられますよ」(同)
中国では、莫大な人数をかけてネット空間の検閲を行っていることは有名だ。昨年にはアニメやゲームの人気動画投稿サイト「ビリビリ」で、検閲スタッフが過労によって亡くなるということまで起きている。
AI開発競争でアメリカに負けるわけにはいかないが、政治の「真実」は忌避しなければならない。中国は悩ましい問題を抱えそうだ。
(猫間滋)