5月27日、日米で同時公開され、前作を凌ぐ空前の興行収益を記録中の、トム・クルーズ(59)主演の最新作、「トップガン:マーヴェリック」。
言わずもがな同作は36年前の1986年、トム・クルーズ主演で制作された「トップガン」の続編で、前作同様、制作に際し米海軍が全面協力。基地や空母などが開放され実戦さながらの迫力ある映像が楽しめる。
ところが、この映画をめぐるある出来事で、中国共産党幹部が怒り心頭なのだという。解説するのは、中国事情に詳しいジャーナリストだ。
「実は、1986年に公開された1作目では、主人公のトム・クルーズが着用するジャンパーに米国旗と国連旗、日章旗、台湾の国旗が描かれてたのですが、2019年に公開された続編の予告編には、そのジャンパーに台湾の旗はなく、代わりに他の架空の旗が描かれていたんです。ところがいざ本番では、トムのジャンパーは第1作と同じものだった。これを観た中国共産党幹部が激怒して、『トップガン:マーヴェリック』の中国での上映無期限中止が決まったと伝えられています」
製作したのはパラマウント映画だが、同社はなぜ、予告編から削除したこのシーンを復活させたのだろうか。映画ジャーナリストはこう語る。
「この映画を作ったのはジョセフ・コシンスキー監督をはじめとした製作陣ですが、このジャケットを着るべき、と最後まで主張を替えなかったのが、実はトム自身だったというのです。というのもここ数十年、米ハリウッドは世界第2位の経済大国となった中国市場を意識するあまり、中国に忖度する映画を多く作ってきた。今作も、中国最大のIT企業である『テンセント』がパラマウントと提携契約を結んでいました。しかし、中国国内で『親米映画』支援に乗りだしたという声が出たことで、テンセントが中国共産党の官僚から目を付けられたら大変、と投資を撤回。ならばパラマウントにしても、中国の顔色をうかがう必要はない。こっちもやってやろうじゃないかと、中国の怒りを買うことを承知でトムのジャンパーに台湾国旗を加えたというのが真相のようです」
今回の「決断」を伝えた米ブルームバーグは、「ハリウッドの映画会社の一部の経営陣が、中国の検閲問題について新たなページを開いた」と称賛。台湾の国営通信社「中央通訊社」は「ハリウッドは金儲けよりも表現の自由を選んだ」とし、「自由時報」などの台湾メディアもこぞって「トップガンに中華民国(台湾)の国旗が戻ってきた」と、同社の”英断”に拍手を送っている。
「1作目でトムが演じるマーヴェリックは、米海軍の艦載機F14『トムキャット』を操縦する大尉ですが、続編では大佐の教官として描かれています。この30年で世界情勢も様変わりし、当時敵国だったソ連は崩壊。代わって中国が台頭してきたことで、続編では軍事的、経済的に米国を脅かす超大国になった中国を『敵』と想定、戦闘機によるドッグファイトシーンがふんだんに盛り込まれています。そう考えると中国の反発は必至で、遅かれ早かれ結果は同じだったかもしれませんね」(同)
昨年10月に中国では、朝鮮戦争で中国人民志願兵が米軍を相手に戦った歴史を英雄的に描いた映画「長津湖」が公開され、中国映画史上最高の興行成績を記録したという。どうやら、エンタメの世界ではすでにナショナリズムを露呈する米中戦争が起こっているようだ。
(灯倫太郎)