「ジュエは使うな」金正恩、娘と同名国民に改名強要と「顔ナデナデ」溺愛映像の意図

 8日に平壌の金日成広場で行われた建軍節75周年閲兵式。重厚なミサイルや兵器が通り過ぎていく中、金総書記と手をつなぎ、ぴったりと寄り添う女の子。2人は顔を寄せ合い、金氏が耳元で何かささやく。すると、女の子が金氏の顔にそっと手を添え、金氏が満面に笑みを浮かべる—。そんな映像が翌9日、朝鮮中央通信で放映された。女の子は金氏の娘キム・ジュエ氏、推定年齢は10歳前後だとみられる。

「この映像を流しながら朝鮮中央通信が『金正恩同志が愛するお子様と李雪主女史と共に広場に到着した』と報じていることから、少女が金総書記の娘であることは間違いない。ジュエ氏が初めて公式の席に姿を見せたのは、昨年11月18日のICBM火星17型発射現場での式典で、以来、ICBM開発・発射功労者記念写真撮影行事(昨年11月26日)をはじめ、先月1日には朝鮮中央テレビが、金氏とともに短距離弾道ミサイルを眺める姿を報じ、さらに7日に行われた建軍節75周年記念宴会でも金氏に寄り添う映像が公開されています。つまり3カ月足らずの間に、彼女が公の席に現れた映像は今回で5回目。また、直近の北朝鮮メディアで『最も愛するお子様』『尊貴なお子様』という尊称を使用している点から、4代世襲に向けた地ならし的な意味合いが強いのではとも言われています」(北朝鮮ウォッチャー)

 とはいえ、金総書記は北朝鮮ではいわば神のような存在だ。したがって、過去に金氏の顔を誰かがなでる映像など公開されたことはないはずだ。この点について、北朝鮮問題に詳しいジャーナリストは、「自分が人間的な指導者であるとアピールし、国民に暗に後継者は娘キム・ジュエ氏だと認知させようとしているのでは」としてこう語る。

「現在、北朝鮮では新型コロナウィルスの影響と経済制裁で食糧難が進み、地方では餓死者も急増していると言われます。一方ではミサイル開発に余念がなく、国民の不満も爆発寸前とされています。そのため、金氏としてはなんとかして国民の不満をかわしたい。それが今回の『娘を愛する父親像』であり、ひいては『北朝鮮という大家族の慈悲深い父』という演出に繋がっているという見方もでき、そんな本音が見え隠れしていますね」

 韓国統一部も10日、この“ツーショット”について「労働新聞の写真などから、北朝鮮はこの演出にかなりの力を入れたようだ」との見方を示している。ところがそんな中、米国の放送局ラジオフリーアジア(RFA)は、北朝鮮当局がキム・ジュエ氏と同じ名前を持つ住民に改名を強要し、住民たちがこれに反発していると報道。波紋が広がっている。

「報道によれば、北朝鮮では『金日成』時代には『イルソン』、金正日時代にも『ジョンイル』、そして現在は『ジョンウン』という名前を強制的に変えさせ、『首領の神格化を続けてきた』と伝えていますが、10歳前後の子供を偶像化し始めたことが事実だとすると、いよいよ金氏の健康状態に問題がある可能性もある。いずれにしろ、しばらくはこの親子の動向から目が離せませんね」(同)

 はたして、頻度を増すキム・ジュエ氏の露出の裏に隠された金総書記の狙いとは…。

(灯倫太郎)

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