青森県八戸市にて、徹底した会計管理で堅実に黒字営業を続けていた、公認会計士との兼業ラーメン屋「ドラゴンラーメン」。しかし、前編でもレポートした通り、オープンから2年1カ月で閉店することになった。異色の人気店に何があったのか─。
コロナの影響でテナント施設が閉鎖になり、一時的に営業できなくなる、といった危機も乗り越えてきたドラゴンラーメンと、オーナーの石動龍氏(43)。オープン時刻に合わせて行列ができることも珍しくなく、ようやく地元でも人気店として認知されてきていた。しかし、2周年直後の22年10月4日、同月限りでの閉店をアナウンスする。
「すでに私は毎日厨房でラーメンを作っていたわけではなく、信頼していたスタッフに調理を任せることも増えていました。ですが、メインで任せていた男性スタッフの方が、店を辞めることになったんです」(石動氏、以下同)
そもそも石動氏には、公認会計士など士業全般の「本業」がある。店が軌道に乗るにつれ、営業後の集金など資金管理の部分は必ずみずから行ってきたが、任せられる部分はスタッフに委ねる分業体制を敷いてきた。自然な流れだったが、主力スタッフが欠け、後任も見つからなかったことで店が回らなくなったのだ。
「スタッフは扶養範囲内で働きたい主婦の方のアルバイトが中心でした。閉店した今となっては、正社員を雇っていれば、という気持ちはありますね」
ただし、人手不足は閉店の大きな要因ではあったものの、実際には石動氏が想定していなかった、あるいは想定以上だった他の理由があったという。1つは昨年巻き起こった世界的なインフレだった。
「食材では小麦と油の値上がりが特に厳しかったです。同時に、ガス代、電気代が上がったことも大きく響きました」
特に昨秋以降、食品等の値上げが相次ぎ、家計が圧迫されている感覚は誰しも持っているはず。しかしドラゴンラーメンでは、一部メニューを除き、煮干し出汁を商品名に押し出したメインメニューは価格据え置きのまま出していた。
仕入れの金額が上がれば、すぐさま利益減に直結するのが飲食業。インフレでメニューの全面的な値上げに至った飲食店が少なくなかったが、あえてそうしなかったのはなぜか。
「今はコンビニで売られている500円のラーメンでもおいしい時代。安易に値上げして、1000円以上のラーメンを提供したらお客さんも離れてしまう。特に八戸のように少子高齢化が進み、人口が減少する地方都市では飲食業の事業継続はなかなか難しく、そうした値上げは受け入れてもらえないのでは、と思ったんです」
ラーメンは1杯700〜800円、そんな風に考えるラーメン好きも多いだろう。石動氏にとっては、人手不足問題と同時に降って湧いた2つ目の問題だっただけに、大幅な値上げで店を存続させる、という判断には至らなかったのである。
*「夢のラーメン屋経営」でガッポリ儲ける方法(4)につづく