北朝鮮は18日、北西部の平安北道・東倉里から日本海に向け、準中距離ミサイル(MRBM)2発を発射した。北朝鮮の朝鮮中央通信はこれを「偵察衛星を開発するための最終段階の実験」と報じた。
朝鮮中央通信は、今回の“実験”で撮影したとみられる打ち上げ場面の写真を公開。しかしこの写真に対し、韓国の専門家らが「粗悪で軍事どころか地球観測にも使えない」などと酷評。すると、金正恩総書記の妹の与正氏が例のごとく「けなすのに頭がいっぱいで常識外れの言葉を吐くしかない」と激怒。またも両国の間で舌戦が繰り広げられることになった。
そんな中、ソウル聯合ニュースが19日、韓国政府筋からの情報として、北朝鮮が今年乱発したミサイルにかかった費用で、北朝鮮の全住民が46日間食べられるコメを購入できることが明らかになった、とのショッキングな記事を掲載。波紋が広がっている。
記事によれば、北朝鮮は昨年、金正恩政権発足以来の最悪の食糧難に見舞われ、さらに気象状況が悪く肥料不足もあり、今年の穀物の収穫量は451万トンと、前年より18万トンも減少したという。
「結果、北朝鮮内でも経済的に立ち遅れた地域である、北東部の咸鏡道で食糧不足による餓死者が続出しているというんです。咸鏡道は平壌からも遠く、新型コロナ感染拡大による封鎖強化で食糧事情が大いに悪化したとされる地域。記事には、例年と同程度の穀物を輸入したとしても来年も80万トン程度が不足すると推計される、とあり、そうなれば咸鏡道だけでなく他地域でも餓死者が出る恐れが大いにある。つまり今の北朝鮮の経済状況は、ミサイルを打ち上げている場合じゃないということです」(全国紙記者)
そんな状況にもかかわらず、北朝鮮では相変わらずミサイルの開発と実験に莫大な費用が投じられている。
「今年発射されたミサイルは全部で71発。韓国の情報筋によれば、大陸間弾道ミサイル(ICBM)が8発で1430億ウォン(約147億円)、短距離弾道ミサイル(SRBM)は43発で500億ウォン(約52億円)が使われたとの試算があり、北朝鮮の生産コストが西側より低いとしても、おそらく3000億ウォン(約310億円)近い金額が費やされたと見られています」(同)
先のソウル聯合ニュースの記事によれば、《ミサイル発射の総費用はコメ50万トンを購入できる額で、これは北朝鮮のすべての住民の46日分をまかなえる量。また来年の北朝鮮の食糧不足分(約80万トン)の60%以上を補うことができる規模》と政府関係者が説明しているという。
「振り返れば、北朝鮮は96年から99年までの『苦難の行軍』と呼ばれる時代に、人口のほぼ10%にあたる約200万人の国民が餓死した時でさえ、当時の金正日総書記は父親・金日成の遺体が安置される宮殿改修のために推定9億6000万ドル(当時のレートで約1000億円)をつぎ込んでいます。その額は、北朝鮮2400万人の国民の3年分の食糧費に相当すると言われ、それを人民ではなく身内のために使ったことで分かるように、かの国の人権への概念はわれわれとは全く異なります。国際的な制裁にも政権はビクともせず、厄介ですがそこが北朝鮮の強みでもあるのです」(同)
1発のミサイル発射で、多くの国民が苦しんでいる。
(灯倫太郎)