世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「夏の甲子園で感じた“大切”なこと」

 夏の甲子園はほんまに面白かった。連日、昼間は高校野球、夜はプロ野球を見る生活リズムやった。勝っても涙、負けても涙。僕は1965年の大会に大鉄高3年の時出場して、1回戦の秋田高にサヨナラ負け。延長13回にセンターの僕が二塁手とお見合いして、ポトリと落ちるヒットが決勝点となった。高校球児たちのサヨナラ負けのシーンを見ると、昔のことを思い出して感情移入してしまう。

 まだ甲子園ロスというか、ちょっとした喪失感がある。仙台育英と下関国際の決勝戦も素晴らしかった。最終的に点差は開いたけど、両チームともドラマがあった。優勝した仙台育英は東北勢で初優勝。北海道には飛行機で優勝旗が渡って行ったけど、陸続きの「白河の関」は越えてなかったんやね。須江監督の優勝インタビューも感動的やった。「僕たち大人が過ごしてきた高校生活とは全く違うんです。青春ってすごく密なので」と、この3年間、コロナ禍で翻弄され続けた全国の高校生のことを思いやっていた。満塁ホームランを打った岩崎君も病気を乗り越えての活躍だったという。きっと何か「持ってる」ものがあるんやろね。

 下関国際もいいチームやった。準々決勝の大阪桐蔭戦には驚かされた。終盤まで接戦に持ち込んでたから「ひょっとすると」と思っていたけど、9回に2点を奪っての逆転勝ち。僕の高校時代は打倒PLでやっていたけど、今は大阪桐蔭が全国の高校の目標。対戦した時に名前負けしてしまうチームも多いけど、下関国際は違った。

 特に2番手で登板した仲井君の気持ちのこもった投球は目を見張った。かわそうとせず、強気にストレートで内角を突いていた。プロの世界でもそうやけど、変化球でかわしてくるベテラン投手は楽やけど、勢いのある若手にストレートで真っ向勝負されると怖さを感じる。強い相手に立ち向かう気持ちの大切さを改めて認識させられた。坂原監督のもとで、日々厳しい練習に耐えてきたから「絶対に負けてたまるか」となるんやろね。

 準々決勝の近江・山田君と高松商・浅野君の対決も見応えがあった。バックスクリーンへのホームランは驚いたけど、1死一、二塁からの申告四球にはもっと驚いた。近江の監督は山田君をもってしても「抑える方法がない」と思ったんやろうね。浅野君はドラフトの目玉となるのは間違いない。右打者で甲子園の浜風に負けず、右翼席に放り込むパンチ力はえげつない。足も速いし、大舞台で活躍する「運」や「強さ」を持っている。これはプロで活躍する上で大事なこと。同じことは近江の山田君にも言える。甲子園で一つ勝つのも大変やのに11勝もするのは、やはり何か持っている証拠やから。気持ちの強さを感じる投手やった。

 高校野球が面白いのは、こういう選手たちがプロの世界でどう成長していくか続きを見られること。プロ野球の現役選手たちも甲子園を見て刺激を受けていると思う。母校が出場した選手はなおさら。しごかれながら、みんなで喜んだり、悲しんだりしたことを思い出しているはず。高校3年の夏の大会のような気持ちで毎試合プレーするのは無理やけど、「しんどいことを乗り越えたんやから、負けたくない」という思いは大事。ここから1カ月は、各チームの気持ちの強さの勝負になる。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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