世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「近本に感謝、そして褒めたたえたい」

 新型コロナウイルスの第7波に球界が翻弄されている。球場に4万以上のファンを入れて、ようやく活気が戻ってきたと思っていたらコレやから。ウィズコロナというのは難しい。首位独走だったヤクルトは高津監督を含む1、2軍の選手、スタッフの30人近くが陽性となり、7月9、10日の阪神戦が中止。13日から試合を再開したけど、戦力ダウンは否めずに6連敗で優勝マジックも消滅した。日本ハムの新庄監督ら、他のチームでもコロナ感染の離脱者が相次いでおり、ギリギリの状態でペナントレースが続いている。

 ケガをせずに試合に出続けるのが一流選手と言い続けているが、コロナだけは防ぎようがない。ワクチンを打っていても関係ないし、無症状の人も多いから、どこでもらうかわからない。

 このご時世だからこそ、12球団でただ一人だけフルイニング出場を続ける近本(阪神)は褒めたい。本人も「やらないとわからない世界もあると思う。1イニング、2イニング残して交代したところで体力は変わらない。その2イニングを頑張って、その先に見える世界のほうが楽しみ」と、立派な発言をしている。自身初のフルイニングにこだわりを持っているようやし、ぜひ続けてほしい。

 僕らの時代はチームの顔として最後まで試合に出るのが当たり前やった。現役の最後のほうは試合終盤に交代させられることも増えたが、人間、楽を覚えるとロクなことはない。「交代する」という選択肢ができることで疲労を感じたり、体の痛みや不調を覚えるようになる。だから若いうちから試合途中でベンチに座るようになると、ほんまもんの強さは身につかない。佐藤輝や大山も、近本と同じように最後まで試合に出るべきやと思うで。球場に来ているファンは控え選手やなく、スター選手を見たいわけやから。

 近本には昔の僕の記録を掘り起こしてくれたことにも感謝している。7月6日の広島戦(甲子園)で30試合連続安打を達成し、マートンの球団記録に並んだ。プロ野球では76年の張本さん、77年の僕の記録に並ぶ歴代5位タイ。関西のスポーツ紙では毎日、ランキング表に僕の名前が載っていてありがたかった。プロ野球記録は高橋慶彦(広島)の33試合連続。近本には記録更新を期待していたけど30で止まってしまった。

 同じ経験をしたからわかるけど、どうしても記録は意識してしまう。30試合近くなってくると、マスコミをはじめ周りがザワザワしてくる。慶彦の記録は79年のもの。誰か安打製造機が頑張れば届きそうなのに、40年以上も残っているのは、プレッシャーという見えない壁があるから。僕の時(77年)は阪急の先輩の長池徳二さんの32試合(71年)がプロ野球記録で、「あと2」で止まり、ほんま悔しかった。

 近本は記録が途絶えた翌日のゲームで、気持ちを切り替えて今季1号を放った。一晩寝て、悔しさを引きずらないのがプロ野球選手として大事なこと。近本は今年で4年目。波の少ない、いい選手になった。最近では矢野監督も3番に固定。何より休まないのが素晴らしいし、阪神では一番計算できる選手やと思う。近本にとっても一番怖いのはコロナ。こんな時代やからこそ、フルイニング出場の価値はとてつもなく高い。シーズン完走を応援してあげたい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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