厚生労働省の調べによれば、現在、65歳以上の高齢者は約3640万人。世界でも類まれな構成比で、その数は増え続けることが予想される。
そんなニッポンで、これまで売れないとされた70〜80代向けの書籍が大いに売れている。
Amazonを覗いてみると、「92歳総務課長の教え」(玉置泰子著:ダイヤモンド社)、「老いて今日も上機嫌!病気知らず86歳名医の健康習慣77」(石川恭三著:河出書房新社)、「私はわたし、84歳のスタイルブック」(木村眞由美著:KADOKAWA)などなど、その数ざっと十数冊。しかも、軒並みランキングが高いことがわかる。
中堅出版社の編集者が語る。
「実は、以前から高齢者向けの本の企画はあることにはあったんです。ただ、『70歳』『80歳』とタイトルにつけると、会議の段階で『それでは売れないだろう』となり、ボツになるか、あるいは別のタイトルに変更して出版されるというのが一般的でした。ところが、コロナ禍になり、医師の和田秀樹さんが出版した『六十代と七十代 心と体の整え方』(バジリコ)や、『60代から心と体がラクになる生き方』(朝日新書)などが売れ始め、あれよあれよという間にベストセラーになった。ならばさらに上の世代にもとばかりに、70〜80代向け本が相次いで出版され、それが当たるという流れになったんです」
ちなみに、和田氏の著書「70歳が老化の分かれ道」(詩想社新書)は、今年3月のトーハンの新書ランキングで1位になり、さらに「80歳の壁」(幻冬舎新書)も発売当初、アマゾン全体の1位を獲得するなど、著者本人が驚くほどの勢いだったとか。
和田氏自身も「PRESIDENT Online」のインタビューにこう答えている。
「70歳の本がベストセラーになっていたので、書店でこの本を売る自信はあったが、さすがに80歳を対象にした本がオンラインのアマゾンで売れるとは思わなかった。書店に出かけるよりアマゾンで買うほうが楽なのかもしれない。スマホを持つ高齢者も増え、また現役時代からPCに触れている高齢者が80代超というケースも多いのだろう」
たしかに、街角でもスマホを器用に扱う高齢者をごく普通に見かけるようになった。
「和田さんはかねてより、高齢者は『長生き』より『元気でいること』を求めていると主張していますが、評論家の樋口恵子さんも、著書『老〜い、どん!2 どっこい生きてる90歳』(婦人之友刊)のなかで、これまで背を向けてきたスマホやパソコンなどへの意識がコロナ禍で変化し『卒寿われテクノローバの仲間入り』したと書いています。つまり、コロナ禍が副産物としてアクティブシニアを量産させた、ということなんだと思います」(前出・編集者)
同著の巻末には、樋口氏と昭和女子大学理事長兼総長の坂東眞理子氏との対談が収録されており、「あきらめちゃいけませんね。見果てぬ夢を見るのが高齢者の特権じゃありませんか」と記されているが、柳の下のどじょうをめぐる出版業界の「見果てぬ夢」もしばらく続きそうだ。
(灯倫太郎)