世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「ノーノー大盤振る舞いの原因とは」

 年に何回もの出来事だと、快挙という感じがしなくなってきた。DeNAの今永が6月7日の日本ハム戦でノーヒットノーランを達成。佐々木朗希(完全試合)、東浜に続き今季早くも3人目となった。延長戦で完全試合を逃した中日・大野雄を含めると4人目。こうなると、ノーノーの大バーゲンやな。投高打低の今のプロ野球を象徴している。

 6月7日時点の個人打撃成績(規定打席以上)を見ると、3割打者がセ・リーグで4人、パ・リーグは2人だけしかいない。これは異常事態。開幕から2カ月の時期は、3割打者が各リーグで10人ほどいるのが普通。ここから梅雨時、夏場を乗り越えて、本物の3割打者となれるかどうかやから。10回に3回打席に立つ打者がこれだけ少ないんやから、ロースコアの試合が多いのも当然。投手戦は玄人好みと言われるけど、観戦しているファンからしたら、得点シーンが少ない試合ばかりで物足りないと思う。

 投高打低の理由は打者のほうに大きな原因がある。メジャーではフライボール革命とやらで、アッパー気味のスイングがもてはやされたけど、その影響からか、日本のプロ野球でも振り回す打者が増えてきた。その弊害は確実にある。ボールをとらえる確率が一番上がるのはレベルスイング。バットが下から出るアッパー気味のスイングでは速い球を打つのが難しくなる。

 これだけ各打者の打率が低いのに、ホームランの数自体は減っていない。セ・リーグでトップの巨人・岡本は17本(6月7日現在)打っているけど、打率2割3分9厘は4番打者としては寂しい。ホームランの出やすい東京ドームを本拠地としているから、それほど振り回す必要はないはずなんやけどな。少年ファンの多いソフトバンクの柳田や阪神の佐藤輝も下からバットが出るタイプ。だから三振が多いし、内角の高めをストレートでどんどん攻め込まれてしまう。フライボール革命の前に、まずはバットにボールが当たらんことにはどうしようもない。

 速いストレートだけでなく、変化球の見極めも全体的に悪くなっている。これはスイングだけでなく、バットの材質も影響している可能性がある。我々の現役時代はアオダモが主流やったけど、材料不足で、今はメイプルやホワイトアッシュが使われることが多い。堅くてはじきがいい材質なので、しならせるよりも重量を軽くして力任せに振る打者が増えている。上体の腕力に頼ったスイングやから、ボールと思ってもバットが止まらない。だから阪神の青柳のような変化球がおもしろいように決まる。

 青柳は、6月になっても両リーグ1位の防御率0点台をキープしている。シーズン最後まで0点台を守れば、1970年の阪神・村山実さん以来の驚異的な記録となる。ストレートの速さは150キロにも満たないけど、サイドとアンダースローの間ぐらいの腕の振りで、低めに変化球を集めて打たせて取るスタイル。上体の力だけで振る打者はストライクゾーンからボールになる変化球に全く対応できていない。打ちにくい投手なのは認めるけど、防御率0点台ははっきり言って打者が情けない。

 まだシーズンは半分以上も残っている。しっかりと下半身を使ってのレベルスイングができない打者が多いから、今年中にさらにノーノーを達成する投手が出てくると思うで。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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