とはいえ、いくらプーチン大統領でも「核のボタンには手をかけない」というのが、大方の見立てだろう。たとえ、ウクライナ侵攻にNATOが軍事介入する可能性が高まったとしても、ロシアが牽制のために核兵器を使用してしまえば、保有国同士の核戦争に発展する。人類滅亡の可能性すら出てくるため、プーチン大統領が夢見る帝政ロシアの復活が遠のくどころの話ではないからだ。だが、「プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争」(文藝春秋)を上梓した国際ジャーナリスト・山田敏弘氏は、次のように分析する。
「大前提として、プーチン大統領は旧ソ連の情報機関・KGBの出身です。西側諸国でのスパイやテロ活動、反乱分子の粛清など、母国のためなら敵に対して一切の容赦がない組織に属していた。我々から見れば異常に感じる価値観を持った存在です。それでも国家のリーダーとしてリアリストたらんとしていたはずのプーチン大統領が、近年は明らかに価値判断基準が国際的な政治感覚ではなく、KGBの理屈や『大ロシア』的イデオロギーに偏っているように感じます。それが年齢のせいか、ささやかれるガンやパーキンソン病などの健康不安のせいなのかはわかりませんが‥‥」
変節を指摘する声は少なくない。ロシア軍がウクライナに攻め込む直前、危機回避の調停役として会談したフランスのマクロン大統領は、安全保障を重視し、被害妄想的な歴史観を語るプーチン大統領を、「3年前とは別人になってしまった。頑固で孤立している」と評している。だが、山田氏はある可能性を指摘する。
「『マッドマン・セオリー』と呼ばれる外交手法があります。その名の通り、相手に『こいつは何をするかわからない』と思わせ、交渉を有利に進めたり、譲歩を引き出すのです。古くはベトナム戦争時代のニクソン大統領、最近ではトランプ前大統領も、この手法を用いていました。プーチン大統領の『核戦争も辞さず』と言わんばかりの言動も、マッドマンを装っているだけなのかもしれません」
当然ながら、その可能性に賭けたいところだが、
「本当のマッドマンになっている可能性も完全に否定することはできない、というのが今の彼の恐ろしさなのです」(山田氏)
下手をすれば、ウクライナに核ミサイルを撃ち込んで、大西洋を飛び越えてアメリカまで‥‥そんな「核のドミノ連鎖」も起きかねない。そうなれば、日本にも核が飛来してくる可能性もある。
*「週刊アサヒ芸能」5月19日号より。【4】につづく