東証改革「市場大再編」が「肩透かし」「骨抜き」と揶揄される理由

 コロナ前、2万円台前半で推移していた日本の株価は、日本でも感染者が広がり始めた20年3月には1万6000円台の底まで下がり、11月10日にファイザーのワクチンの有効性が示されるや一転して29年ぶりの2万5000円台まで爆上げした後、世界的な金余りもあってこのところはずっと2万円台後半で推移している。

 そんな、悪くはないが3万円の大台を突破できない“起爆剤”に欠ける日本の株式市場を大きく変えようと東京証券取引所はこの春に大改革に乗り出す予定だが、おおよその全体像が見えたところで、結局は「肩透かし」や「骨抜き」といった芳しくない評判ばかり聞こえてきている。

「東証は4月4日からこれまでは5つあった市場(東証1部、2部、マザーズ、ジャスダックスタンダード、ジャスダックグロース)を「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つの市場に再編を行う予定です。狙いとしては1つには、13年に大阪証券取引所と統合したことで市場が増えすぎてしまったこと、2つ目には各市場に厳しい基準を設け、市場に見合った企業価値を正しく反映させることで投資家の信頼を得て、市場を活性化させるためです」(経済ジャーナリスト)

 例えば現行の最上位である東証1部上場を満たす基準は、流通する株式の時価総額が40億円で上場でき、株価が下がっても10億円を下回らない限りは上場廃止にならなかったが、今度の最高位のプライムではこれが100億円以上となる。従って、単に優良な企業というだけでなく、規模も伴わないとプライムには残れないことになる。要は、これまでの上場企業は玉石混交で東証1部に上がることは容易かった。それを厳選しようというわけだ。

 東証がこういった改革に踏み切ったのは国際競争力における危機感があったから。昨年9月段階での日本株の時価総額はドル換算で(1ドル110円とすると)6.9兆ドルだが、アメリカは48.3兆ドルで親子ほどの差がある。19年7月には上海証券取引所にも追い抜かれて、今や世界第5位と相対的な地位は低い。

 そこで大改革に踏み切るわけだが、東証が1月11日に公表したプライム移行企業はトヨタやソニーといった誰もがそうだろうと思う企業ばかりで、最終的には2185ある1部上場企業の1850ほどがプライムに横滑りするだけ。蓋を開けてみればほとんど変わり映えしない見込みなのだ。「肩透かし」と言われる所以だ。

 さらにはその1850社のうちだいたい300社はプライムの基準を満たさない企業になる見込みだが、そこは基準を満たすための「計画書」を提出すれば良く、しかもタイムリミットは特に設けられていないというのだから、実質は“努力目標”でしかなく、義務教育の中での宿題のようなぬるさなのだ。「骨抜き」と言われる所以だ。

「一方、現在はジャスダックスタンダードの日本マクドナルド、ワークマンといった、プライムに飛び級で移行しても不思議ではない企業の中でプライム選択を表明しているのはマザーズのメルカリぐらいで、これら企業は投資家の思惑と期待が外れて、東証の発表があった11日は総じて株が売られて株価が下がるという憂き目に遭いました。また、例えば大正製薬やエバラといった企業は、東証1部からスタンダードへの“都落ち”の移行を敢えて選択。だから流出はあったけれども流入はないといった具合で、特に利点が見当たらないのが現状です」(同)

 年明け早々、アメリカではアップル株が時価総額で3兆ドルを突破、1企業でありながら東証1部の半分にまで迫った。アメリカではグーグルの親会社のアルファベットやアマゾンなど、3兆ドル予備軍はほかにもあって、結局は成長力のある企業があるかないかの問題だ。日本の場合、東証が仕組みを変えたところで…といった寂しい結末なのだった。

(猫間滋)

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