世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「ヤクルトにあって阪神にないもの」

 ヤクルトが阪神、巨人と三つどもえの優勝争いで存在感を増してきた。しぶといし、粘り強く戦っている。今年は観客の入場制限があるから、選手の声がよく聞こえるけど、中でもヤクルトベンチの声はひときわ大きく聞こえてくる。その先頭に立っているのが村上。見ていてどっしりしているし、高卒4年目にして、チームリーダーと言える選手になってきた。

 村上は9月19日の広島戦(神宮)で35号を放ち、21歳7カ月の史上最年少の通算100本塁打を達成した。あの清原や王さんをしのぐ記録やからほんまに大したもの。高卒2年目に36本塁打で頭角を現して、昨年、今年と順調に成長している。いつも言うように3年続けて成績を残して一人前。そういう意味でも村上は押しも押されもせぬ本物のレギュラーとなった。

 末恐ろしい打者やけど、ここまで来るのは才能だけやなく、並大抵でない相当な努力があったはず。本塁打、打点の2冠を狙える成績を残している打撃だけでなく、三塁の守備も安心して見ていられるようになった。コツコツと積み上げてきた成果が出ている。

 何より素晴らしいのは、体の強さ。痛いのかゆいのと言わずに試合に出続けている。目つき、面構えも変わってきた。神宮の阪神戦で二塁走者の近本のサイン盗み騒動があった時は、三塁ベンチで声を荒らげる矢野監督に臆せず向かっていった。21歳の選手がなかなかできることじゃない。

 ヤクルトが強いのは、マークを分散させて、4番の村上を孤立させていないことにもある。3番の山田、5番のオスナという、村上の前後を固める打者だけでなく、クリーンアップの後ろで正捕手の中村がバットでもいい働きをしている。塩見や青木も1、2番で機能しているし、代打の切り札に川端が控えている。打線の得点力はリーグ屈指と言える。

 開幕前の順位予想でヤクルトを優勝とした評論家は誰もおらんのと違うかな。僕もここまで勝てるチームとは思わなかった。打線は力があるけど、投手力が弱すぎると思っていた。それがここに来て、先発投手陣もプラスαの力が出てきた。高卒2年目の奥川が素晴らしい。阪神も巨人もねじ伏せられていた。ストレートに力があるし、同じ腕の振りで変化球を投げられる。コントロールも抜群やし、攻略が難しい投手。打つほうが村上なら、投手では奥川が今後、何年も引っ張っていく存在になる。

 優勝争いの大詰めでは、村上のようなチームリーダーが士気を高めることが重要。巨人・岡本も成績では村上に負けていないけど、性格的なおとなしさを感じる。やっぱり巨人はまだ坂本に頼るしかないやろな。阪神のつらいところはチームリーダーがいないこと。キャプテンは大山やけど、ユニホームにCマークがついているだけ。内に秘めた闘志はあるんやろうから、もっと表に出してほしい。9月になって巨人戦でのサヨナラ本塁打など3試合連続でお立ち台に上がりながら、好調は長続きしなかった。同じ4番・三塁としてスタートした村上、岡本に随分と差をつけられてしまった。

 ヤクルトが優勝したら、MVPは文句なしに村上、巨人なら岡本やろな。阪神はというと、パッと名前が出てこない。怪物ルーキーの佐藤輝が復活すれば、がぜんムードは盛り上がるんやけど。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

スポーツ