総理大臣だった者が、秘書がやったことだと言って関知しない姿勢は、国民感情として納得できない。きちんと説明責任を果たすべきだ——。安倍晋三前首相の後援会が主催した「桜を見る会」前夜の夕食会収支をめぐる事件で、一部容疑で十分な捜査が尽くされていないとして、東京第1検察審査会がこんな付言を添え、「不起訴不当」と議決したのは先月30日のことだ。
政治ジャーナリストが語る。
「今回、不起訴不当になったのは、安倍氏側が補填した夕食会の費用が選挙区内での寄付にあたるという公職選挙法違反と、安倍氏が代表を務める資金管理団体『晋和会』の会計責任者の選任監督を怠ったという政治資金規正法違反の二つの容疑。夕食会は安倍氏の後援会主催で、2013年から年1回、都内のホテルで開かれていたのですが、安倍氏は『ホテルが設定した額を参加者が払った。事務所や後援会の収入、支出は一切ない』と国会等で説明していました。しかし、実際は会費だけで賄えず、不足分は安倍氏側が補填していた事が発覚し、二つの容疑で告発されていましたが、結局は東京地検特捜部が詰め切れず、嫌疑不十分で不起訴になっていたんです」
今回の議決を受け、東京地検特捜部は再捜査を行い、改めて起訴するかどうかを決めることになるが、前出のジャーナリストによれば、「改めて安倍前首相が起訴される可能性は低いものの、再捜査の結果が出るのが総選挙後になるため、政局に与える影響が大きい事は間違いない」という。
このところ、議連活動に参加したり、都議選の応援に駆けつけるなど、徐々に活動を再開させている安倍氏。その背景にはもちろん、出身派閥である細田派に復帰し、安倍派形成の地ならしがあることは言うまでもない。
「自民党内には、いまでも安倍氏待望論が根強く、その母体となるのが安倍氏が実質のキングメーカーとなりつつある細田派です。ただ自民党としては、7月中旬時点では、菅首相のまま衆院選に臨み、その後もよほどのことがない限り、菅政権が継続する前提で動いてきました。ところが、いくら五輪でメダルラッシュが続いても、菅内閣の支持率低下が一向に止まらない。永田町には、かつて参院のドンと呼ばれた青木幹雄氏に由来する『青木の法則』なるものがあり、これは、『内閣と与党第1党の支持率を足して5割を割ったら、その内閣はつぶれる』というもの。それに倣えば、7月の時事通信の調査による内閣支持率は29.3%と3割を割り込み、自民党の支持率21.4%と足しても50.7%。菅氏は『時事とNHKの世論調査を重視している』と言われるので、仮に8月13日発表予定の時事通信調査による支持率が5割を待っていた場合、菅氏では選挙は戦えない、というムードが広がり、一気に『菅おろし』が加速する可能性は高いですね」(前出のジャーナリスト)
つまり、その際に、安倍氏を推そうと考えていた人々にとって、今回の「不起訴不当」決議は青天の霹靂だったというわけだ。
永田町では、9月5日にパラリンピックが閉会式を迎えたら、菅義偉首相はすぐに臨時国会を召集して冒頭解散。総裁選の日程を延期して、10月の総選挙へと突入するのでは、との見立てもあった。だが、菅内閣の支持率が下げ止まらない今となっては、このシナリオも実現性に乏しいだろう。
さて、9月末に任期満了を迎える自民党総裁選には、どんな顔ぶれが立候補するのか。安倍氏の再々登板はあるのか? パラリンピック終了後、政局は重大な局面に突入する。
(灯倫太郎)