北朝鮮の政治犯強制収容所に収監された家族の、苛酷な実態を3Dアニメ化、世界で絶賛されていた映画『トゥルーノース』が、いよいよ日本で6月から公開されることになった。
公開に先立ち、18日、外国人特派員協会で、脚本・プロデュースを手掛けた清水ハン栄治監督(50)らが出席、試写会と記者会見が行われた。在日コリアン4世の同監督は、これまでにも人権をテーマにした偉人伝記漫画シリーズや、映画『happy-しあわせを探すあなたへ』などのプロデュースを手掛けてきたが、「北朝鮮の強制収容所から生き延びた人の手記を入手し、そのあまりにも過酷過ぎる内容に3日間食事が喉を通らなかった」と語る。そして、「事実に基づいた内容を克明に伝えたい」といの思いから、改めて脱北者や元看守への取材を綿密に重ね、数々の重要証言を得たという。
エンタメ系メディアのライターが語る。
「このアニメでは収容所周囲の風景のほか、公開処刑する際に人をくくりつける木の形、身体と木の紐の結び方やさるぐつわのハメ方、さるぐつわをする前には口に石を詰めることなどを詳細に取材し、実際に起こっていることがリアルに描かれていますが、これは、アニメーターを取材現場に同行させ、実際に資料を見て話を聴きながらタブレットで描いてもらった、という部分が大きいのだとか。ただし、現実だけを伝えると悲劇のオンパレードになってしまうので、公開処刑があったあと、どうやって慰めあったのか、あるいは、そこにはユーモアはあったのかなど、地獄のなかでのヒューマニティを大切にピックアップした作品に仕上がっています」
かつて、スイスのジュネーブで「北朝鮮の人権と脱北者に関する国際会議」が開催され、北朝鮮の強制収容所に28年間にわたって収容されていた女性が、その日常を「犬以下の生活」と告白。世界に衝撃が走ったことがあるが、北朝鮮に詳しいジャーナリストによれば、「強制収容所から出て、さらに脱北できたことは奇跡に近い」と語り、こう続ける。
「この女性は13歳のとき、両親が収容されていた『第18号管理所』と呼ばれる政治犯収容所に送られたのですが、食料はほとんどなく、毎日のように餓死する人が出ていたのだとか。彼女は『あまりに多くの死体を見すぎて、すぐに、死体を見ても何も感じなくなった』と証言しています。また、所内では『トウモロコシ粉を盗んだ』『迷信を信じた』などなど、極めて理不尽なものも含め、ありとあらゆる理由で『罪』に問われ、毎年100回を超える公開処刑が行われています。しかも、北朝鮮での公開処刑は所内の全員が『見学』しなければならない決まりがある。彼女が初めて死刑を目にしたのは13歳のときで、その後30年近く、目の前で行われる処刑を見てきたわけですからね。本当に地獄という以外、表現方法が見つかりません」
監督・脚本を務めた清水氏いわく「公開処刑のシーンなどもあるため、実写にするとホラー映画のようになると考えた。見る人を怖がらせるのではなく、人々の心を揺さぶるような作品にしたかった」というが……。
映画『トゥルーノース』は6月4日から全国公開される予定だ。
(灯倫太郎)