薬物犯罪の摘発劇といえば、徹底した内偵捜査や職務質問のシーンを思い浮かべる人は多いかもしれない。だが、違法薬物の所持で検挙された男はなんと、みずから110番通報して現行犯逮捕にいたったという。そのいきさつをお笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火がリポートする。
珍しいパターンで事件が発覚した違法薬物の裁判が東京地裁で行われました。
被告人は会社役員の男性(40代)で、起訴されたのは、去年10月に被告人が自宅で乾燥麻を含む植物細片5.104gを所持したという内容。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を中退後、職を転々として現在は広告制作会社の役員をしているという。調べてみると広告の賞をもらったり、かなりリアルなCGを作ったりと、その業界では優秀な人物として知られているようです。
被告人は2019年5月に家族でキャンプに行った際、見知らぬ人から違法薬物に指定された麻の草をもらい、それを使わずに自宅に保管していたらしい。
そして去年10月。被告人は奥さんから浮気を疑われてケンカに。押し問答になったので被告人はたまらず110番通報。警察が現場に駆けつけると、奥さんが「この人、違法薬物持ってるから!」と告げ口。警察官がその場で部屋を捜索したところ、ホントにブツが見つかって逮捕というのが事件の流れです。
違法薬物を持ってるのに警察を呼んでしまうとはね。そして、夫婦ゲンカの勢いでバラされるとは……。
そして被告人質問。
弁護人「違法薬物を持っているのに自宅に警察を呼んだのはなぜですか?」
被告人「失念していました」
持ってるのを完全に忘れてたようです。持ってるだけで違法な物なのに。
弁護人「奥さんはなぜ知ってたんでしょう?」
被告人「別居する事になっていて、私が仕事中に荷物を整理してる時に見つけたのかなぁと」
奥さんとしては何かあった時の切り札として心に秘めてたんでしょうね。それが夫とケンカになって警察も家にやって来るという、これ以上ないチャンスが巡ってきたって感じでしょうか。
弁護人「何回くらい使用したんですか?」
被告人「一回も使ってません」
弁護人「吸引するための器具も見つかってますよね?」
被告人「キャンプ場でもらった時にホンモノなの?と興味はあったんですけど、道具とかを買い揃えて満足してました。モチベーションが下がったと言いますか。なので1年以上放置してて失念してました」
もらった時は興味津々だったけど、頭の中から存在が消えてたんでしょうね。自分で警察を呼んだのがその証明って気もするけど。
これに対し検察官からの質問です。
検察官「ずっと持ってたら家族や会社の人に迷惑掛けるとは思いませんでした?」
被告人「思いませんでした。ブラックボックスをもらったとワクワクしてて、物への好奇心はあったんですよね~」
たいした罪じゃないって認識もあるからなんでしょうか、違法な物への好奇心があったと発言する被告人。
検察官「さっきモチベーション下がったって言ってましたけど、捨てようとは思わなかった?」
被告人「捨てるという発想がなかったので」
検察官「使用にしては結構な量ですけど、ホントに忘れてたの?」
被告人「はい。忘れてなければ警察呼ばないので」
使ってないからなのか、悪びれてない感じなんですよ。法廷とは思えない、被告人本人とは思えない軽〜い喋りと言うか。
最近、麻草に関する規制で所持だけじゃなく使用でも取り締まれるように厳しくする動きがあるのに、多くの人がこれくらいの認識なのかなぁと。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。2月24日開催の大川興業の事務所ライブ「すっとこどっこい」(ミニホール新宿Fu-)に出演予定。