「森進一詐欺」はなぜ起きた? 同姓同名の給付金50万円を詐取した意外手口

 降ってわいたような報道に、本人もさぞやご立腹なのではないだろうか。

 石川県内の同姓同名の男性を装い、新型コロナウイルス対策の特別定額給付金をだまし取ったとして、詐欺などの罪に問われた無職の男(50)の 公判が10月20日、金沢地裁で開かれた。 ところが、男の名が「おふくろさん」で知られる歌手の森進一と同姓同名だったことから、本来なら、ベタ記事扱いとなるこの事件が、大きく報道されることになった。

「森被告はネットで全国の同姓同名情報を集め、5月に石川県能登町に住む男性の世帯分の申請書を書き換えて郵送、現金40万円をだまし取り、さらに男性本人を装ってオンライン申請をして10万円を詐取した容疑で起訴されています。加えて、福島県と北海道の男性にも成りすましてオンラインで給付金を申請したんですが、生年月日の情報などから市や村の職員に不正を見抜かれ、未遂に終わった事件も含め、詐欺未遂などの罪で追起訴されています」(全国紙社会部記者)

 ネットで入手した「同姓同名」情報をもとに特別定額給付金をだまし取るとは、とんだ不届きものだが、森進一と同姓だったことが報じられると、SNS上では、

《同姓同名の犯行?いや〜、森さんには迷惑な話やな〜》《森進一のなりすましだと思ったじゃねぇか》《お前みたいなやつは冬のリビエラに送還されちまえ!》

 という声に交じって、

《でも、有名芸能人と同姓同名の人の人生って大変そう》《犯人もさんざん森進一のモノマネさせられたんだろうな》《やったことはクズだけど、これまでの人生いじられっぱなしだったろう事は気の毒》

 といった同姓同名ゆえの苦労に思いを馳せるコメントも少なくなかった。

 とはいえ、詐欺は立派な犯罪。育ってきた環境はどうあれ、この男が犯罪に手を染めたことはまぎれもない事実だ。

 だが、「簡単に支払うほうも支払うほうで、まさにオンラインシステムの脆弱さが明るみに出た事件」とバッサリ切るのが、ITジャーナリストだ。同氏が言う。

「取り調べに対して男は複数の自治体へ自身のマイナンバーカードを使い、オンライン申請したと自供しているようですが、特別定額給付金のオンライン申請は、マイナンバーカードの情報と申請時の入力情報、住民基本台帳に基づいた給付対象者リストの3つを突合することが基本。しかし、石川県ではその確認作業をすり抜けています。というのも、 オンライン申請は、内閣府が運営するマイナポータルサイト内にある申請ページを通じて申し込む仕組みですが、申請の際には世帯主の本人確認のためにマイナンバーカードが必要で、世帯主以外の家族の名前は申請者が直接入力していたため、申請内容に誤りが多かった。たとえば、1人で複数回申請しているものがあったり、家族の情報を誤って入力していたり……でも、最初の頃はそれでも受け付けられていたんです。で、二重払いなどのトラブルが続出してしまった。対象者に正しく支給するには、世帯情報をまとめる住民基本台帳ネットワークの情報と申請時に入力された情報との照合が必要ですが、世帯情報を持っているのは自治体だけ。そのため、申請内容が正しいかどうかを自治体の職員が1件ずつ目視で確認しなければならず、結果、郵送申請の処理より何倍も手間がかかるという本末転倒の状態が起きてしまった。おそらく、コロナ禍の職員の焦りや混乱がなければ、こんな詐欺は成立しないはず」

 意外なことに、その手口は稚拙そのもの。つまり、この詐欺事件はオンライン申請の非効率な仕組みが生みだしてしまった犯罪という側面もあるようだ。

「金に困って犯行に及んだ。間違いありません」と公判で素直に罪を認めているという森進一被告。そんな男にネット上では「おふくろさんを泣かせるなよ!」の声が飛んでいる。

(灯倫太郎)

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