毛細血管を鍛えてコロナに克つ!大学教授が指南する「かかと上げ」と「呼吸法」

 重篤なコロナ後遺症は、血管との重要な関係がある。ウイルスと血管。その謎を解き、危険を回避するキーワードに「ゴースト血管」なるものがあった。

 新型コロナウイルスは心臓病や糖尿病、高血圧など基礎疾患を持つ人の重症化リスクが高いとされる。

「スイスの研究グループが、重症化した患者の臓器を病理解析した結果、肺だけではなく腎臓や小腸など、多くの臓器の血管で炎症が確認されたんです。しかも血管に炎症が生じているところでは、血管内皮細胞にウイルスが感染し、細胞内でびっしりと増殖していることもわかった。つまり、ウイルスは弱っている血管に感染するということです。高齢者や若い人でも、基礎疾患があり毛細血管が血管として見えていながら本来の機能を果たしていない、いわば『ゴースト化』することで、よりウイルスのターゲットになりやすくなる。結果、重症化リスクが高まるのです」

 こう語るのは「『毛細血管』を鍛えて免疫力を上げ病気を防ぐ』(MDN)の著者で、血管研究の第一人者として知られる大阪大学微生物病研究所情報伝達分野・高倉伸幸教授だ。ゴースト化した毛細血管、すなわち「ゴースト血管」の命名者である。

 血管というと、動脈や静脈をイメージしがちだが、我々の体の中には毛細血管のネットワークが張り巡らされており、その長さは地球2周分以上の約10万キロメートルに及ぶとされる。

「血管の99%は毛細血管。体のあらゆる臓器や細胞はこの毛細血管から酸素と栄養を受け取り、反対に水や老廃物、疲労物質などを回収してもらっています。そのため、ここがゴースト化して無機能な血管になってしまうと、老廃物や疲労物質が回収できなくなり、疲労が蓄積。気がつくと、動脈や静脈に危険が及ぶことにもなります」

 毛細血管は内皮細胞とそれを補強する壁細胞とで構成されており、壁細胞から「アンジオポエチン−1」という物質が分泌されている。これが内皮細胞にある「タイツー」という物質を活性化させると内皮細胞同士を接着させ、最終的に壁細胞も内皮細胞に密着。その結果、血管の構造が強化されるという。

「ところが、さまざまな要因でアンジオポエチン−1の分泌量が減少すると、タイツーが活性化できなくなる。すると密着していた壁細胞が外れやすくなり、血管の形状が保てなくなる。内皮細胞との間にできた隙間から血液が漏れ出し、血流が途絶えてしまうんです」

 毛細血管の血流が悪ければ酸素や栄養が細部に運ばれなくなるため、糖尿病や高血圧といった生活習慣病が悪化。さらには認知症や骨粗しょう症、肝硬変、腎疾患と、あらゆる病気の引き金になってしまうのだ。

 毛細血管をゴースト化させる原因のひとつに、加齢があるというが、

「他の臓器や組織同様、毛細血管の血管内皮細胞も新陳代謝を行い、新しい細胞に置換していきます。ただし、細胞の分裂には限界がある。タイツーの活性化は血管内皮細胞の長生きにも関わり、分裂回数を減らせます。ところが加齢によりタイツーを活性化するアンジオポエチン-1の分泌量が減少するため、タイツーが活性化しづらくなってしまいます」

 そのため、内皮細胞との間にできた隙間から血液が漏れ出し、そこに高血糖などが加わってくると、アンジオポエチン−1の分泌量は減少することに。

「特に高血糖は毛細血管の老化を加速させるといわれています。というのも、我々の体の中では過剰な糖質とたんぱく質が結びつき、体温という熱が加わることによって『AGE』という『焦げ』のような物質が発生します。このAGEが毛細血管の血管内皮細胞に入ると、活性酸素が大量に発生。AGEという『焦げ』と活性酸素という『錆び』によって、血管のゴースト化が加速してしまうんです」

 ふだんから糖質を多く含む食生活をしている、あるいは一気飲みや早食いなどの習慣がある人は、血糖値が上がりやすいと考えていい。加えて運動不足や睡眠不足など、生活習慣病になりやすい生活を送っている人は、血管がゴースト化しやすいとされる。それが糖尿病や高血圧などの疾患として表れ、ウイルスの格好のターゲットになるというわけだ。

「基礎疾患があるということは、毛細血管や、毛細血管と同じ種類の壁細胞が内皮細胞に接着している細静脈などが常にダメージを受けている状態。ダメージを受けると、それを修復しようと『エースツー(ACE2)』というたんぱく質が使われます。ところが新型コロナウイルスは、このエースツーを使って細胞内に入り込んでくるんですね。それが新型コロナウイルスのやっかいなところなんです。まずは毛細血管をゴースト化させないよう、防御することが重要になります」

 毛細血管の血管内皮細胞は、新陳代謝により新しい細胞に変化する。しかし残念ながら、加齢が代謝能力を低下させていることも事実だ。

「人間はケガをしても時間がたつと回復するように、自然治癒能力が備わっている。この機能は年齢を経ても残っています。その観点から考えると、加齢により血管がゴースト化しても、改善しないということは考えにくい。つまり毛細血管は鍛えることで、何歳からでもよみがえらせることは可能だろうということなんです」

 そのためには日々の食事、運動、自律神経の調整が必要になる。高倉教授が勧めるものとしては、

「まずはタイツーを活性化させる食材を摂ることです。代表的なものはシナモン、ヒハツ(コショウの一種)、ルイボスティー。特にルイボスティーはスーパーなどでも手軽に手に入るので、食事の中にぜひ取り入れてほしいですね」

 運動に関しては、毛細血管が密集しているふくらはぎを刺激することで血流を促す「その場足踏み」や「かかと上げ」など。時と場所を選ばす隙間時間を利用してできるので、試してみたい。さらに、自律神経のバランスを整える効果が期待されるのが「片鼻呼吸法」だという。

「左右の鼻を交互に使いながら呼吸すると、鼻腔の中に作られている一酸化窒素が鼻の粘膜を通し吸収。末梢血管を拡張させ、血圧が安定するというメリットもあり、副交感神経の活性化を促してくれるはずです」

 現段階では、これらの方法が新型コロナウイルスに効果がある、といった具体的データはないものの、意識を持ってこうした防御策を実行することで、毛細血管をよみがえらせることも可能になるのだ。

 下の「チェックリスト」で血管の老化に心当たりがあれば、今日から実践してほしい。ウィズコロナの時代だからこそ毛細血管を鍛え、血管のゴースト化によるウイルス感染リスクから身を守ろうではないか。

血管の老化チェックリスト(高倉伸幸著「『毛細血管』を鍛えて免疫力を上げ病気を防ぐ」より)

血縁者に心筋梗塞、脳卒中、狭心症を患った人がいる/血糖値が高い/血圧が高い/コレステロール値が高い/昔よりも太った/睡眠時間が短い/頭痛や肩こり、腰痛を慢性的に患っている/肌がよく乾燥する/シミやシワが増えた/髪にハリやツヤがない/手足の指先が冷える/傷の治りが遅い/足がよくむくむ/運動をほとんどしない/早歩きや階段を上る際に動悸や息切れがする/肉や揚げ物をよく食べる/インスタント食品や菓子類をよく食べる/お酒をよく飲む/タバコを吸っている/イライラすることが多い

※当てはまる項目が多いほど、血管の老化が進んでいる可能性が高い

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